1980年のある年、英国である掃除機が発売されました。
開発者の名前がブランド名でもある、その掃除機の名前は「ダイソン」。
そう、サイクロン式掃除機です。
■パック式のポイント
それまでの主流は、「パック式」。
パック式というのは、パックの外壁をフィルターとして使います。
要するに巨大な筒内にパックを装着。
そのパックを外から吸引し、パック内にゴミを集める。
パック内が一杯になったら、ゴミ捨てです。
パック式のポイントは3つです。

エレクトロラックス エルゴスリーのカット模型。
密閉度が高い構造。
これが、強力な吸引力と静音性を生む。
1つめは、「密閉度」です。
全ての空気はパックを通ることが必要です。
つまりヘッドの先から、パックまで隙間がないことが必要ということです。
密閉度が問われるのは、サイクロン式も同様ですが、パックは破けたりしますので、非常に注意が必要です。
2つめは、パックの素材です。
パックはフィルターの役目をします。
パックは使えば、使うほど目詰まりするわけです。
別の言い方をすると「吸引力が落ちる」わけです。
これに関しては、後ほど言及しますので、ちょっと置いておきます。
さて目詰まりしたパックは、目詰まりを直さなければなりません。
布パックの時代、私の母親は庭の隅に行き布パックを叩いていましたね。
咳き込みながらです。

ミーレのパック。
10層構造の使い捨てを前提とした特殊素材。
時代は、布パックから紙パックに移行します。
紙なので布より安価です。
「使い捨てパック」の登場です。
主流になった紙パックに問われるのは、「フィルター」と「安さ」としてのバランスです。
メーカー品の多くは「フィルター」機能を重視しますし、第三者メーカーの多くは「安さ」を重視します。
メーカー品は、紙パックと総称しつつも、現在は特殊素材が使われていることが多いです。
第三者メーカーの紙パックは、それに及ばないことが多く、掃除機の性能を下げることがあります。

パナソニック Jコンセプト掃除機のモーター
左)従来、右)新開発品
掃除にとって、小型&ハイパワーは永遠の課題
3つめのポイントはモーターのパワーです。
フィルターの目が段々詰まって行く中、しっかりとした吸引力を保つにはモーターのパワーが必要です。
ここも大きなです。
■サイクロン式のポイント
サイクロンの最大のポイントは「構造<」ですね。
パック式がフィルターでゴミを濾すなら、サイクロン式は遠心分離でゴミを分ける方式です。
単純にいえば、「細長い円筒形のダストボックス」の中で風で渦を起こし、遠心分離に掛けるわけです。
空気と共に吸引されたゴミのうち、重いゴミは中〜下の壁面に押しつけられ、軽いゴミ、チリのたぐいは上〜中の壁面に押しつけられます。
そうして、空気をきれいにして排気するわけです。
つまり、遠心分離がキレイにできているサイクロン掃除機は、「フィルターなし」でキレイな排気となるわけです。
サイクロン型は、フィルターのように目詰まりがありません。つまり常に空気の通り道が確保されているわけなので、吸引力が落ちない。
ここが、サイクロン掃除機のポイントとなります。
このサイクロンの技術ポイントも3つです。
1つめは、サイクロン気流を起こすだけの強力な「モーター」です。
サイクロンは、インド洋エリアでの「台風」を表す言葉です。
似たモノに、タイフーン(=台風、東シナ海エリア)、ハリケーン(カリブ海エリア)がありますが、台風の力たるや、実は地震より遙かに大きいのです。
国土交通省中部地方整備局が設置した「中部地方の天変地異を考える会」が、2006年に、「スーパー伊勢湾台風」「東海・東南海・南海地震」「富士山の噴火」など「天変地異のエネルギー(試算値)」を発表したことがあるので、それから引用します。
台風1976年9月の台風17号。最も降水量が多い台風 | 1.8×10の20乗(J) | 250倍 |
地震マグニチュード8.7想定 | 7.1×10の17乗(J) | 1倍 |
日本の 総発電量2012年実績 | 9408億kWh | 4.7倍 |
大型地震を1とした時、なんと台風は、大型地震の250倍なのです。
掃除機の中で、本当の台風を作り出すわけではありませんが、渦を巻かせるというのは大変なことなのです。
技術の2つめは、ダストボックスの形状です。
渦が出来やすいダストボックスの形を見いだすのは、非常に手間が掛かります。
技術の3つめは、気流コントロールです。
多くの場合、空気は理屈通りには、中々進んでくれません。
この小さなダストボックスの中で、確実に強いサイクロンを起こし、ゴミを壁に押しつける気流コントロールが必要です。
モーターが弱でも強でも、きちんとそれができることは重要な技術です。
■パック式は時代遅れなのか?
ダイソン以降、日本市場はサイクロン掃除機が主流になりました。
少なくとも、店の目立つところに置かれているのは、サイクロン型です。
では、パック式は時代遅れなのでしょうか?
私は、そう思いません。
というのは、パック式は理にかなっているからです。
フィルター方式というのは、確実にゴミを捕らえる方式です。
フィルター方式の欠点は、フィルターの目より小さなゴミを取ることができないことと、目詰まりが発生したら効率が落ちるという2点です。
それに対し、構造が簡単、設置も簡単、安いなど、メリットが多々あります。
つまり、取りたいゴミのサイズを明確にし、それに対し「目」の大きさを決め、さらに何らか目詰まらないようにしてさえやれば、極めて優れた方式なのです。
逆にサイクロン型に欠点はないのでしょうか?
実はサイクロン型の欠点は、ダストボックスにあります。
掃除機の中のゴミ入れですからね。
容量に限界があります。
つまり、ゴミが溜まりすぎると、サイクロンとして不可欠な渦を発生させられなくなるのです。
確かに、上手く作ってある製品もあり、ゴミをダストボックス一杯まで溜められる製品もあります。
一般的に、サイクロンは頻繁にゴミ捨てをした方がベターです。
が、慣れると余り負担にはなりませんが、面倒臭いのは事実です。
次のポイントは、サイクロンのゴミ捨てです。
先に、布パックからゴミを出す時、母がわざわざ庭隅まで行き、はたいた話をしました。
これは、私が幼い頃、気管支炎喘息を患っており、母がホコリを吸わせまいとしたのが大きな理由ですが、実はサイクロンのゴミ捨ても余り変わりません。
ダストボックスからある勢いを付けて出されるゴミは周辺にまき散らされます。
私は、家族にハウスダストのアレルギーを持つ人に、サイクロンを余り薦めません。
理由は、ダストボックスの処理の方法によっては、ゴミ捨て時にアレルゲンを吸い込む可能性があるからです。
サイクロンのゴミ捨ては、ゴミ袋の中で行うことが望ましい。
そうしてゴミ捨て時の、ホコリの拡散を防ぎます。
最近のサイクロン式の掃除機は、ゴミ袋の中といった環境でもゴミが出しやすいモノも多いです。
そして、ダストボックスを洗ってください。
そうするとサイクロン式の長所だけ、享受することができます。
パック式のパックに当たるのがゴミ袋と考えてください。
そうすると、サイクロン式とパック式の違いがよくわかります。
■最近のパック式掃除機はイイぞー!
最近のパック式掃除機の例を、3つ揚げさせて頂きます。
これ以外にも、お勧めできる製品は色々あります。

ミーレ Compact C2 SDAO 0 CY
カナリー イエロー
1つ目は、ミーレの掃除機です。
パックはなんと10層。
パックの目詰まりを防ぐポイントは、多層化です。
多層化は、目詰まりをコントロールすることが可能です。
単純にいっても、フィルターの面積が2層で2倍。10層だと10倍。
10倍のゴミが取れるといってもイイですし、それだけ目詰まりしにくい。
つまり、「吸引力が落ちにくい」と言えます。
えっ、そんなパック高いだろうって!
4枚で1,620円(税込)です。
400円/枚です。
平均:3ヶ月に1枚だそうですので、133円/月です。
「高い」という人もいると思います。
が、サイクロン掃除機ですと、2回/月の掃除、長くとも1回/月の掃除はお願いしたい。
サイクロンは、原理的にフィルターレスですから、機能を保つにはこれが重要です。
洗い掃除ですので、約5分掛かるとします。
時給 1,000円とすると、83円。
月あたり50円の差です。
月2回洗うと逆転します。
価格差は、あってもそのレベルです。

エレクトロラックス
エルゴスリー
次の掃除機は、エレクトロラックスのエルゴスリーです。
特徴は、「静か」! ということです。
掃除機ですからね。
「そんな馬鹿な」という人もいると思います。
が、エレクトロラックスは、実際静かです。
データーで43dB。
部屋のTV、ラジオの音を聞きながら、掃除をすることができるレベルです。
普通の事務所の騒音が、40〜50dB。TVの音が50dB強ですから。スゴいモノです。
掃除機の「密閉度が高い」のですね。
パックは5層。
これもスゴい掃除機です。
最後の例は、パナソニックのJコンセプト、MC-JP500G。
特徴は、とにかく軽いこと。
本体重量、2.0kg。
重要な機能であるフィルターを、紙パックで作っていますからね。
ギリギリまで軽く出来るわけです。

左)パナソニック パック式掃除機 MC-JP500G。外装も凝った作り。
右)本体内は、紙パック、モーター、電源ケーブルがほとんどを占める構成。
このシンプル差が本体:2kgを生み出す
ちなみに、パックは3層構成です。
■現在の住宅事情とのマッチング
現在、日本の住宅、生活環境では、夜に掃除したり、窓を開けずに掃除することも多い。
というより、特に都市部を中心に、それがドンドン当たり前になってきています。
一人暮らし、会社から帰宅すると多くの場合、陽は落ちていますからね。
そして季節が冬なら、窓を開ける気にもならないというのが本音でしょう。
それを前提に、上の3機種を見てください。
そしてアレルギーがある人は、ゴミ捨てのことを考えてください。
そうなのです。
パックを進化させることにより、吸引力をほとんど落とすことなく使えるようになった今、パック式の掃除機の返り咲いているのです。
購入時、もう一度、パック式を見直してみませんか?
商品のより詳しい情報は、各社のホームページにてご確認ください。
ミーレ:http://www.miele.co.jp/jp/domestic/aboutus_top.htm エレクトロラックス:http://www.electrolux.co.jp/ パナソニック:http://panasonic.jp/
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