プロトタイプと製品
デザイナーの力
デザイナー。一時期もてはやされたカタカナ職業です。
「デザイナーって「外形」を作る人でしょ」、っという人がいるかも知れませんね。
そんなことはありません。商品の1/3は彼らの力でできていると言っても可笑しくありません。
今回そのことを、三菱の展示会で感じました。
「プロトタイプ」という面白い写真もありますので、是非ご覧ください。
■「万能の天才」の出自
「万能の天才」というと誰を思い浮かべますか?
いろいろな説がありますが、最有力なのは「レオナルド・ダ・ヴィンチ」でしょう。
絵画、彫刻、建築、音楽、科学、数学、工学、発明、解剖学、地学、地誌学、植物学など様々な分野で名前が見られます。
何故、これだけ広範囲のことに才能を発揮できたのでしょうか?
それは彼が画家だったためだと思います。
画家は、絵を描く職業ですが、一番重要なのは「見る」ことです。
そう「正確に見る」ことは、どんな分野でも非常に重要なのです。
私の中学の頃、まだデパート催事場で、企画展が行われていた時代です。
レオナルドの解剖図が展示されているというので、見に行き息を呑んだ覚えがあります。
1つは、その正確さです。
現在の解剖図と変わらない。
しかも動き、例えば手の骨がどう動く、関節はどう当たるまで描き込んであります。
2つめは、その美しさです。
画家だから当たり前といいますが、「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記」を見ますと彼はメモ魔であったことが分かります。
このため、つまり彼は早書きでも美しいデッサンが描けたわけです。
これを可能にするには、絵画に必要な情報を正確に見る必要があります。
彼はキチンと人間を描くために、解剖学を学んだといいます。
そうでないと、中身のない人間を描いてしまうためです。
「正確に見る眼」「どうしてそうなるのかがわかる」のは非常に重要です。
■石ノ森章太郎の「マンガ 日本の歴史」
石ノ森章太郎が「マンガ 日本の歴史」のあとがきに、次のようなことを書いていたのを覚えています。
「とにかく、何が大変というかというと、資料集めが大変。
小説なら、描写しなくてもよい、建物の塀も描かなければならない。
特殊な塀なら資料も残っているが、その時代当たり前のものは記録がない。
しかし書かなければ、画が完成しない。
とにかく大変な作業である・・・。」
実は、文章記録というのは、ヌケが多い上に、いろいろな解釈ができます。
画というのは、それを許さないのです。
見たら分かりますから、ごまかせないのです。
■デザイナーに提示されたプロトタイプ:調理コンボ
右の写真をご覧ください。
炊飯器「本炭釜」とレンジグリル「ZITANG」です。
高さに凸凹がありますが、イイ感じだと思いませんか?
が、プロトタイプはこれです。
「炊飯器」「小型レンジグリル」「ポップアップ・トースター」「コーヒーメーカー」が一線に並んだデザインです。
テーブルの上で使う可能性がある調理家電を、システム化したものです。
サイズ的には、2人用でしょうね。
独身の女性、新婚さんがターゲットだと思われます。
正直、私はオーディオのミニコンポかと一瞬思いました。
デザイン洗練度は、非常に高いです。
隣の女性は、「イイね」を連発です。
が、私はこれを見た瞬間、「このモデルは買ってから難易度高いなぁ」と思いました。
買って持って帰ると、他社の家電、インテリア・デザインとは合わせにくい。
難しいものです。
しかしよく見てください。
三菱の炊飯器は性能がイイのも特徴の1つですが、デザイン的に特徴があります。
四角いのです。
それが三菱のアイデンティティにもなっていますが、四角の発想は並べる可能性から出されたモノだと思います。
それを単独で、他社の家電の中に潜り込ませても、可笑しくないレベルに昇華されています。
単独でも、並べても、他メーカーに紛れてもキレイなデザインです。
見事なものです。
■デザイナーに提示されたプロトタイプ:冷蔵庫
TVで茂木氏がしている「アハ体験」ではありませんが、この冷蔵庫はどこが新しいのでしょうか?
そうですね。
ブラック庫内なのです。
皿を含めて実は冷蔵庫内というのは、白い物に充ち満ちています。
で、衛生を旨とする冷蔵庫内ですので、白が多いモノですので、一見するとどれだけ入っているのが分かり難い時があります。
また、スーパーがそうであるように、食べ物を選ぶのは一種のエンターテイメントですから、このスポットライトを浴びたような感じは、ありだと思います。
ただこれだけ斬新だと、拒否反応も大きいと思いました。
聞いてみると賛否両論、真っ二つの状態だそうです。
私は、これは次世代スタンダードになる可能性があると思います。
今や、冷蔵庫がリビングから見える時代ですからね。
どんどん外観は、インテリア調になりつつあります。
そんな時、中身は今までの通りでイイのでしょうか?
私が知る限り、優れたデザイナーというのは、本当に優秀なクリエイターで、常に新しいモノに挑戦します。
それはデザイナーが「表現者」であるからだと思います。
デザイナーの表現は「言葉」ではありません。
モノなのです。
何度か、書いておりますが、私はメーカーがすべきことは、商品を通じ社会に貢献すべきと思っています。
そのためには1にも、2にも優れた商品でなければなりません。
実は優れた商品は、商品が自分のことを物語ります。
四角なので並べた時、収まりが良い。
中が黒なので、収納物が見やすい等、商品が自分の性能をユーザーに説くわけです。
商品は、人間と商品の関わりを見極めた上で、人に添った様に熟成させて行く必要があります。
これは技術だけの問題ではありません。
良い商品というのは、コンセプト、技術、デザインが上手く調和したものなのです。
少なくともデザイナー抜きに作れるモノではありません。
今回の三菱の展示を見ながら、改めて思った次第です。
今後の三菱の商品、まだまだ面白くなりそうです。
2014年6月28日