三菱、IHジャー炊飯器
「蒸気レスIH 本炭釜」新製品発表会
技術を作り上げるには、かなりの時間が掛かります。
2〜3年。中には、10年近く掛かる場合もあります。
その間、同じコンセプトをキープしながら、じっくり技術、仕様を熟成させると驚くべきレベルに到達します。
発表会の冒頭、三菱電機ホーム機器(株)の代表取締役社長 田代氏から発せられた言葉は、「ストック・コンセプト」。
「○○なら三菱」と、言われるような商品を作るとのことです。
お金を出す身としては、「安かろう、悪かろう」ではなく、ちゃんとしたモノが欲しいのですから、応援したい言葉です。
■「炭で焚く喜びを」
タイトルは、三菱炊飯器のコンセプトです。
タイトルにある通り、三菱のIH炊飯器の特徴は2つ。
「蒸気レス」と「本炭釜」です。
「本炭釜」を市場に投入したのは、2006年。今から8年前。
「蒸気レスIH」を市場に投入したのは、2009年。5年前。
双方ともかなり登場してかなり時間が経ち、ユーザーには浸透してきた感がありますが、技術にこれで終わりはありません。
1960年代、全世界から「HONDA マジック」と言われ、世界中のサーキットで連戦連勝。「やるべきことはやり尽くした」と豪語しサーキットを去ったホンダのバイクも、数年で全ての記録を破られました。サーキットに戻っても連戦連敗。
それが技術開発の現実です。
技術は、常に磨き続ける必要があるのです。
何度も、原理から考える必要があるのが事実です。
しかし目先を変えても売らなければならない。中々できません。
そんな中、今まで築き上げた二本の柱を磨くことを宣言した「ストック・コンセプト」。
ちょっと嬉しいです。
■炭であることの意味は?
IHジャー炊飯器のIHは、Induction Heating、誘導加熱のことです。
導線に交流電流を流すと、その周りに向き、強度の変化する磁力線が発生します。
その近くに金属など電気を通す物質を置くと、交流電流により発生した、変化する磁力線の影響を受けて、金属の中に渦電流が流れます。金属には電気抵抗がありますので、金属に電流が流れるとジュール熱が発生して、金属が自己発熱します。
これが誘導加熱です。
今回、三菱が目を付けたのは、「変化する磁力線の影響を受けて、金属の中に渦電流が流れる」ということと、ジュール熱が、電力=電流2×電気抵抗のエネルギーと最大同じエネルギー量であるということです。
磁力は金属を通る内に弱くなります。つまり釜の最外の磁力線が最も大きいです。つまり外側は発熱し易いのです。
中は弱くなります、そうなると発熱は弱くなります。
誘導加熱、IHの基本です。
三菱が炭素素材、本炭釜にこだわっている理由は、磁力線の浸透深さが深いためです。
ステンレス(<a class=”tooltip” href=”#”>430SUS<span class=”tooltipBody”>ステンレスの代表的な種類。SUSはステンレスを、430は種類を示す。</span></a>)が0.24mmなのに対し、炭素素材は10mmも浸透します。
■新型の本炭釜
この基本に鑑み、今回、三菱は本炭釜の仕様を変えております。
米を美味しく炊きあげるには、何と言っても釜底の熱量が重要です。
他の部分の発熱も必要ですが、最も重要なのは米全体を対流する時の中心になる釜底中央部です。
今までは、厚さ:7.5mm、勾配:5°を、厚さ:10mm、勾配:10°としてあります。
磁力が透る10mmですから、全てが発熱源となります。
つまり、釜底に巨大な熱量を持つことができる。
これで米を対流させながら、焚くわけです。
勾配をきつくしているのも流するのにプラスです。
垂直よせると泡が上に上がる勢いがでますので、カニ穴も出来やすくなります。
この間、女性と話していると、「高級炊飯器って、いいのだけど、釜が重いので一寸ね。」と言われました。
米一合:150g。三合:450g。
水一合:180g。三合:540g。
これに釜が、1500gだと、総計2490g。
五合だと3150g。新生児一人分ですね。
確かに、女性が3kgを腕だけで持ち上げるのは一寸厳しいです。
しかし、三菱の本炭釜は、釜底:10mmでも、880gと軽いです。
カーボン素材の軽さが幸いします。
三合で、1870g。五合でも、2530g。
二合分位軽いのです。
三菱の資料から炊きあげ断面を見て頂きます。
よく空気が混ざり、一粒一粒が立っていることが分かります。
■「玄米を美味く」を追加
新製品には、良いところはキープしつつ、新しいものを盛り込んでことも必要です。
今回三菱は、「玄米」に注目。
健康食品でもあります。
米は、稲刈りして脱穀すると玄米。そして糠を全部取り去ると白米です。
江戸っ子は、美味しいので白米を多く食べていました。
で、患うのが、江戸わずらいと言われた「脚気」。
脚気は心不全を引き起こし、死ぬこともありますので、大変な病気です。
徳川将軍、徳川家定、徳川家茂の死因も脚気とされています。
が、この頃は何故脚気になるのかが、分かっていませんでした。
ちなみに、江戸っ子のもう一つの好物は、蕎麦。
こちらはビタミンBが十分に含まれています。
足らない部分を、何となくでも補っているのかも知れません。
そして明治時代。
軍隊に各地から若者が集められます。
大事な兵隊さんですので、基本は白米。
脚気で死ぬ人も多く出たようですね。
大きく扱われることはありませんが、数万人だそうです。
で、明治の終わりに、食事と関係がありそうだと分かり、脚気は撲滅の方向。
いろいろなおかずからビタミンを取ることができる平成の御代では、健康診断からも省かれるわけです。
話を元に戻しましょう。
玄米を白米にするのを精米と言います。
私も精米機のテストを行ったことがありますが、「糠ってやつは」と言いたい位、硬い層です。
食物繊維が多量に入っていますので、当たり前なのですが・・・。
その上、雑味があります。
特に渋みが多い。
江戸っ子が嫌う理由も分かります。
■玄米を美味しく食べるには
白米の調理、つまり炊きあげるのは、2人の職人がしていたそうです。
「磨ぐ人」と「炊く人」です。
給料は磨ぐ人の方が高かったそうです。
実は、米炊きの重要な項目の一つは、米にどの位水を吸わせるのかなのです。
ベストは、米の旨みを閉じ込め、水が米の2.2〜2.4倍入った時だと言われています。
ところが玄米は糠が邪魔をしますので、一番最初の米と同じレベルまで浸水させるのには丸一日が必要です。
そうしないと、米本体に十分水分が入らないので美味しくない。
パサパサした不味い米なわけです。
米への浸水は、美味さにとり、非常に重要重要ですが、浸水だけで美味さが決まるわけではありません。コーヒーでも焙煎だけで美味さは決まりませんし、抽出方法だけで美味さが決まらないのと同じです。なのです。
■創意工夫
三菱の炊飯器の特徴は、「加圧」システムを持たないことです。
理由は、冷えても美味しいからとのことです。
加圧が可能だと、水分を強引に米に入れ込むことも可能です。
しかし、その機構は三菱は有しません。
そこで三菱は、予熱により糠層に亀裂を起こさせる方法を採用しました。
先に書いたように、糠層は米にこびり付いています。
ちょっとじゃそっとじゃ離れません。
が、ひび割れを作ることは可能です。
そうすると、白米の部分はどんどん水を取り込みます。
かくして、普通の炊き方だと、米に約0.98倍しか吸水されないのが、予熱をする「玄米芳潤炊き」モードでは、約2.2倍の吸水。
これは、米の最適吸水量になりますので、美味しいに決まっています。
日本発芽玄米協会で評価してもらった所、以下の評価を受けたそうです。
●炊きあがりがみずみずしく粒立ちが良い
●今までにはないふっくら感がある
●玄米特有の渋みがなく甘み、香りが格別
●玄米のうまみとしっかりした粘りが感じられる
●冷めた後でも艶が残り、おにぎりやお弁当でも楽しめる
私も試食しましたが、玄米とは思えない味。
美味しい健康食品と言っても過言ではありませんでした。
■新「銘柄芳潤炊き」
今年は、20銘柄。カバー率:80%だそうです。
銘柄は、「あいちのかおり」、「あきたこまち」、「あきろまん」、「キヌヒカリ」、「きぬむすめ」、「元気つくし」、「こしいぶき」、「コシヒカリ」、「ササニシキ」、「つや姫」、「ななつぼし」、「はえぬき」、「ひとめぼれ」、「ヒノヒカリ」、「ふさおとめ」、「ミルキークイーン」、「森のくまさん」、「夢しずく」、「夢つくし」、「ゆめぴりか」。
色は、クリスタルホワイトとルビーレッドの2色。6月21日、オープン価格で販売されます。
■同日発表のその他モデル
同日発表された他のモデルは下表の通りです。
商品のより詳しい情報は、三菱電機のホームページにてご確認ください。
http://www.mitsubishielectric.co.jp/index_p.html
■関連記事 レポート:「三菱 蒸気レスIH炊飯ジャー「本炭釜」NJ-XW104J 嗜好品としてのお米 08」
2014年5月28日