豆知識

イオンって何?
02 誤用で御用! マイナスイオン


2002年に流行語となり、健康に欠かすことができないと言われた「マイナスイオン」。その後、「効果がある」「効果がない」で、大いにもめ、最近すっかり聞かなくなりました。 が、イオンを含め用語を使い間違えた場合の問題をよく表していると思いますので、取り上げてみます。

■マイナスイオン
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マイナスイオン?
いいえ、化学では
電荷を示します。

まず「マイナスイオン」という言葉は学術用語ではありません。
過電荷(電荷が多い状態)のイオンは「陰イオン」と呼ばれます。

が、これを使い出したのは学者であるもの事実ですからややこしい。

ゆっくり紐解きましょう。
まずは「滝」です。
滝で皆さん何を思い浮かべますか?

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ギアナ高地から落ちる滝。
エンジェル・フォール。

身投げ? それもあるでしょう。日光の華厳の滝は有名です。
エンジェル・フォール? ギアナ高地の滝で余りの高さのため、途中で水が水蒸気化となり滝壺がない滝ですね。

滝壺で修行するのなら兎も角、畏怖とある種の清々しさを覚えませんか?

日本だと「禊ぎ」を感じさせるからだと言うことも言えるのですが、欧州でも清々しさは同じように感じられます。さらに言えば、滝は大体において高地にあり、高地は病気療養に適しています。
で、この「清々しさ」と「健康」は「何か、関係があるのでは?」と考えた人がいたわけです。

ある学者が「水滴が微細に分裂して摩擦することにより、空気が負に帯電している」ことが、健康に良いのではという「仮説」を出した訳です。

そして、1922年(大正11年)に出版された「内科診療の実際」では空気中の陰イオンの総称として「空気マイナスイオン」と言う訳語が使われています。
英語で「aero-anion」。
これが始まりです。

仮説ですので、いろいろな追試を行い証明に掛かります。
ある程度まとまったレポートが出されたのは、1940年前後「空気イオン説」と呼ばれます。この仮説(!)が、一連の学術根拠の基本となる訳です。

 
■実証の難しさ
化学で実証する時の難しさは、大きく2つあります。

1つめは、本当に原理に従った効果があるのか?
2つめは、人にどの位の影響を及ぼすのか?
です。

マイナスイオンは、この2つが説明されていません。

例えば1つめの原理ですが、マイナスイオンは具体的に空気の何の元素がイオンになっているのかも示していません。

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空気の組成グラフ

仮に、マイナスイオンというのは、空気中の物質が陰イオン化された状態だとします。
が、空気は色々な気体の混合です。
乾燥空気の標準割合は、窒素(約78%)、酸素(約20%)、アルゴン(約0.93%)、二酸化炭素(約0.03%)位です。後は微量です。また実際には、これに水蒸気が加わります。
窒素、アルゴンはイオン化しにくいですので、酸素、二酸化炭素、水、もしくは微量元素です。
イオン化した時の挙動は、元素によっても異なりますし、周りの環境によっても異なります。
元素が分かってこそ、反応した時の結果、効果が分かるのですが、それが明確にできないとなると、何が、どうして効いているのかが分からないわけです。

次に2つめです。
例えば、人が清々しい気持ちになるというのは、実際は複合できな理由です。
「長い間の便秘だったのに、お通じがでた」のかも知れませんし、「スカッと、爽やか、コカコーラ」を飲んだためかも知れないし、もちろん「マイナスイオン」のためかも知れません。

まずは、どの位で効くのかです。
ある人は、「お通じ」80%、「コーラ」15%、「マイナスイオン」5%。
またある人は、「お通じ」20%、「コーラ」30%、「マイナスイオン」50%。
またある人は・・・。
この数値が確定すると、マイナスイオンの効果が分かるわけです。

さらに付け加えますと、原理がはっきりしない限り、その効果もマイナスイオンに寄るモノなのかは分かりません。

「良さそう」と言うのと、それが「はっきりできるレベル」にあるのは別です。

 
マイナスイオンは、特定のできないイオンであり、原理が分からない上、効果も不明確。
健康に効く可能性があるかも知れないモノを、空気中に作り出したかも知れないと言うのが、正確な見方でしょう。

要するに得たいの知れないモノなのです。

 
■「景品表示法」
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えちご屋の繁盛ぶりを描いた浮世絵。

江戸時代、えちご屋(現在の三越)は「掛け値なし」で大当たりを取りました。
品質とは異なりますが、お客に価格の透明化を唄い、成功を収めたわけです。

品質もそうですね。
透明化が望ましい。

が、これは人毎に考え方が異なりますので、次の様な法律が定められています。
「不当景品類及び不当表示防止法」です。通称「景品表示法」。

対象は一般消費者が認知できるモノ。
商品、容器、包装、添付品、見本、チラシ、パンフレット、取説、ダイレクトメール、口頭、ポスター、看板、新聞、雑誌、出版物、放送、ネット、メール等々です。
大抵のモノは引っ掛かります。

しては行けないことは、「優良誤認」「有利誤認」等「誤認」に導く表現です。

しかもこの法律、2003年に、表示に対して合理的な根拠が要求されるように改正されています。

マイナスイオンを使った製品は、2004年にはピーク時(2002年)の1/10以下になったそうですから、如何に根拠のない製品を出していたかが分かります。

 
■マイナスイオンがもたらしたモノ

マイナスイオンの様に、あたかも化学的根拠があり実際に製品などで使われる言葉は、「マーケティング用語」と呼称されることがあります。

人にとって分かりやすい言葉と語感で、人に必要な印象を伝えますが、決して正確ではありません。

良心的に使われる場合、一番近いのは、仏教用語で言う「嘘も方便」でしょう。

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国民を低く見た元首相。
実力もないが、教養もない。

この用語の意味は、「真の悟り」を説明しても、「悟れる段階に達していない人」には分からない。しかしその人を導くために、その人が分かる範囲の言葉で分かりやすく話をする必要がある。そのためなら誤ったことを話しても許されると言う意味です。
そうして導くのですが、真の悟りとは違うので一部「嘘(真実とは異なる)」が混じっているのです。

ポイントは、正しい方向(絶対真理)へ導くために使うということです。
また当然、上の境地に達し、どこが誤っているのかが体得できるまで、指導するでしょう。
それだけの思いがあって初めて成り立つ言葉です。

が、これを曲解している人も大勢います。
彼らが思っている「方便」は、自分より低レベルと考えている人を丸め込むために使う嘘は「方便」になるということです。
どこが違うか、お分かりの事と思います。

「マイナスイオン」は、単純に言えば売らんがために使っていますので、「方便」ではなく「嘘」ですね。
要するに「詐欺」です。
だから「景品表示法」で締め付けられたわけです。

 
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昔イオンで、今ダイエット。
TVの暴走は、マイナスイオンで
終わっていない。

またマイナスイオンの中で、特に問題視すべきはTVの情報番組ですね。
映像は凄いインパクトを持ちます。それは目の前で効果を見せられ、偉い人が解説を加えるのですから。

しかし大学で理数系を学んだ人は、中々引っ掛かりません。
それは技術論証する訓練を積んでいるからです。

引っ掛かるのは情報弱者。
特に病弱な子供を持っている親、特に呼吸系が弱い子供を持っている親は、正しい、間違っているに関わらず飛びつきます。
イヤなことです。

 
もう一つの問題は、「イオン」技術を駆使した技術に、偽物の臭いが付いてしまったことです。
本当は「マイナスイオン」が問題なのに、「イオン」が悪いように捕らえられてしまったことです。

「化学的なイオン」で説明しました通り、イオンは単なる用語。
良い、悪いは有りません。

 
更に言いますと、空気中に何らかの陰イオンが発生した場合、何からの形で健康に利することが実証される時があるかも知れません。
その時、「色メガネ」で見られると言うことです。

実はこれが一番の問題で、実証データを持つイオンを使った家電でも、「効果がない」と言う人もいます。効果の有無の感じ方は人それぞれですが、実証データを感情で否定することはできません。

開発、実証は非常にお金が掛かります。
一時の儲けに目がくらみ、真っ当な製品を作らなかったことが大いに足を引っ張っている訳です。

本当に情けないことと思います。

 
では、次からは使える「イオン」家電の原理と効能のお話をしたいと思います。

対象は、シャープの「プラズマクリスターイオン」「銀イオン」他です。
ご期待ください。

2014年1月2日

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