11月22日に、ミーレのショールームで洗濯イベントが行われました。
イベントでは、洗濯アドバイザーの中村さんのセミナーがあり、ミーレの洗濯機を題材に自分の思いを語られました。
が、私から見ると中村さんは「家電の王道とは何ぞや?」という根源的な問いを発せられていたように思います。洗濯を考える時、または家電を見る時の参考になると思いますので、私の私見も交えて、ご紹介します。
■洗濯はエンターティメント
中村さんは、踏み洗いをした時の話から始められました。
そう毛布などのデカ物は風呂桶の残り湯に洗剤を入れ踏み洗いをしますが、その話です。
夏の暑い日に、子供のこぼしたミルクのシミを取るために、カーペットを踏み洗いしたそうです。
踏み洗いは割と重労働。私なんかも良くやらされました。何たって重労働ですからね。
母親も心得たもので、私の帰郷のタイミングを計り、踏み洗いするものを家中から集めるのですね。
さて中村さん、汗まみれになりながらも、キレイにしたという達成感で、爽快な気分!
やはり大好きな洗濯、広くとれば家事は、エンターテイメントだと思ったとのことです。
「汚れが落ちて、服がキレイになる。」この面白さを伝えたいのが、洗濯アドバイザーとしての力になっているそうです。
■中村さん推薦の洗濯機は?
ところで中村さんは、ミーレを支持しているのですが理由は何でしょうか?
それは「洗濯に対し、「哲学」「思想」「自社なりの答え」を持っている唯一のメーカーだと思ったから」、だそうです。
面白さを伝えるのもそうですが、日本の洗濯に対する認識をポジティブに変えて行きたいという部分で一致したことが大きいそうです。
逆に、「日本の洗濯機は外に答えを求め過ぎ」、というのが彼の感触です。
「ウケがいいから付ける」とか、「これがないとクレームがくる」からとか、です。
例えば、除菌機能とか、自動掃除機能。
これって、洗濯そのものの価値を上げている訳ではないということです。
しかし、そんなことを続けていますので、日本の洗濯機は機能満載です。
ところが洗濯に関する不満は尽きていないのも事実です。
私も「黄ばみを落として欲しい!」という話がでない洗濯機の説明会にあったことはないですから。
「黄ばみが落ちる」というのは、私が幼稚園の頃からTVでさんざん聞かされた文句です。(含 洗剤)
こんな状態なので、「洗濯に対する思想」が重要というわけです。
「完全な洗濯機はない。」と中村さんは言います。
そのため、「洗濯の価値」「洗濯という行為」を自ら定義し、それに沿った商品を作るべきではないかと言います。
■私見1
ちょっと私見を述べます。
私は、メーカーは商品で世の中に貢献していると思います。
その商品のあり方ですが、これは非常に難しい。
目的と見方、あと周りの条件、文化により様変わりします。
それが人間世界の面白さでもありますが・・・。
創業者が作るモノは、いずれにせよ明確です。
エジソンの電球、松下の二股ソケット、ソニーのテープレコーダー、ジョブスのマッキントッシュ等々。
創業者は、それが欲しくて作るわけです。細部のリファインはちょっと足らないにせよ、自分の欲しいものなので細部はぶれません。
極めて分かりやすく、今までにない(だから作ろうとした訳ですので。)モノができあがります。
ところが、次世代、次々世代になると、周りには同じようなモノが・・・。
そこでよく取られるのが、自社が持っている技術と、市場ニーズの探索です。
問題は、この瞬間の責任者です。
何を作るのかをよく見極める必要があるのです。特に機能です。
洗濯機で言えば、最も重要なのは「汚れが落ちることです」。
このために必要なことは、・・・。
洗剤が最も活躍できる環境を作り出してやることです。
そして洗剤の力を借りながら、汚れを落とすことです。
ただ、汚れを完全に落とすことはできませんし、それをしてしまいますと布が傷んでしまいます。
このため、どの程度でOKを出すのかが、重要になります。
ここで評価データが、どうこう言う人がいます。
評価データは、ある側面を数値化したもので、全体を語っている訳ではありません。
重要なのは、ユーザーが満足するレベルに仕上がっているのか? なのです。
商品設計者は、元々のコンセプトも含め、商品がなすべき品質結果も決めなければなりません。
しかしこれが難しい。
設計者、開発者が、その道に詳しく、自分の「目」を持っていることが要求されます。
中村さんの実家は、クリーニング屋さんだそうです。
人間 幼い頃に見知ったことは、忘れません。
中村さんは、語り口は優しいですが、根っからのプロだと思います。
■私見2
商品は、「信念・技術を基にメーカー作ったモノ」「市場データ(もしくは設計・開発者の思い込み)を基にユーザー・オリエンテッドで作ったモノ」に2分され、この間に無限のレベルがあります。
ただ基本機能、性能は、「信念・技術を基にメーカー作ったモノ」でなければならないと思います。
洗濯機なら「汚れを落とす」ですね。
ただ、これは伝わり難いことなのです。何故かというと、全メーカー声を上げて言うことですし、他社品比較は基本メーカーとしてはしませんので。
このため新機能として出る多くのモノは、「汚れを落とす」のではなく、「より便利」の方に力点が置かれています。例えば「時短機能」。
化学反応は、触媒を用いない限り反応は、「分量」「温度」「時間」で決まります。
きつい言い方をすれば、これらの内、何かを変えなければ、時間短縮は無理なのです。
賢明な読者にはお分かりだと思いますが、評価基準を少しばかり変えるのです。
ただ無意識だと、分からないレベルですが・・・。
家事労働は短い方がいい。それはそうでしょう。
汚れの落ちと差し引きにしても時間を取る人もいるでしょうし、そうでない人も多いと思います。
「王道」は必ずしも便利ではありません。
このため、どのレベルで世に問うのかを決める商品企画は非常に重要なのです。
■洗濯のポイント ハードとソフトの融合
中村さんのセミナーに戻りましょう。
彼は、ミーレを洗濯に対して自社の答えを持っているとします。
その中の1つに「洗濯機メーカーなのに、洗剤を作っている」です。
続けて例に上げたのは、中村さんがご贔屓のアップルです。
スティーブ・ジョブスもこう言ったそうです。
「ミーレ社はプロセスをじっくりと考えた。同社が開発した洗濯機や乾燥機のデザインは素晴らしい。これらの製品には、ここ数年どんなハイテク機器にも感じたことのない興奮を覚えた。」
(注:海外で「デザイン」という場合は、多くの場合、設計、設計思想を、含んだ概念で使用されます。)
中村さんは、アップルのよさを
「ハードのためにソフトを用意し、ソフトのためのハードを用意しているから。
「ハードもソフトも両方デザインする」ことでユーザーの圧倒的満足を引き出す。」と語ります。
洗濯におけるハードとソフトは、洗濯機と洗剤なので、双方とも手がけるミーレは、王道を歩むメーカーだと言うわけです。
実例も幾つも示され、中村さんが興奮した時の様子が思い浮かびます。
ここで中村さんは、ミーレの使い勝手に触れました。
「運転時間の長さや、仕分けの細かさは、普通の洗濯機と思って使うと不満が出そう。メニューの多さや仕分け方は、一見、わずらわしい感じを与える可能性がある。」
よくTVで、洗濯機、洗剤メーカーが言っているのとは真逆ですよね。
それで中村さんが達したのはミーレの洗濯機は「自宅に一番近いクリーニング屋さん」という定義でした。
■水洗い専門のクリーニング屋
クリーニング屋が、プロとして衣類をキレイにするためにしていることは、大きく4つだそうです。
1)衣類の仕分け | 生地により大きく7種類。 |
実際は7種類の中で更に細分化するそう。 | |
場合によっては1枚洗いもあるとのことです。 | |
2)洗浄時間の調整 | 1分以内の短い洗浄から、一晩かける漬け込み洗いまで |
3)洗剤の使い分け | 汚れを落とすだけでなく、PHや濃度の調整で使い分け、衣服への影響をコントロール |
4)温度の調整 | 衣服や汚れに応じ、0〜100℃まで |
彼は言います。
「だから、やさしい水洗いを家庭で上手に出来ると下手なクリーニング屋さんよりも洗濯がうまくなる。
ミーレの洗濯機は、いわば、水洗いを専門にしたクリーニング屋さん。」
「自宅に一番近いクリーニング屋さん」
■私見3
「プロ用」というのは、一つの魅力です。
プロ用には共通で持っている特徴があります。
「単機能」ということです。
その単機能に特化しているから、機能はピカイチです。しかし「使いこなす」ことも要求されます。使いこなせないとフルポテンシャルは発揮されません。
だからこそ向こうからすり寄ってくることは、まずありません。
そう言う意味では、仕事はきっちりしますが、可愛げのない、「ゴルゴ13」のような感じです。
ま、そこがカッコイイのですが。
ミーレは家電ですが、似ている部分が多いと思います。
ただ日本の様に、「水道水のままでもOK」「洗剤は、通常とウールでOK」という程々を「是」としていないと思います。
洗剤は水道水より、40℃以上の温水の方が圧倒的にパフォーマンスを発揮します。また、白物と色物では洗剤が及ぼす影響も変わります。
まさにミーレの主張は、まさに洗濯の理論そのものです。
また存在感もあります。
前述の4つのルールが許せるなら、ミーレは素晴らしいパフォーマンスを発揮します。
20年使うことを意識して作ってあると言いますので、値は張りますが、長い目で見れば許容範囲です。
イイ洗濯機です。
王道ですと言われたら、その通りです。
汚れを十分落としたい人には、お勧めです。
ただ、この慌ただしい日本という環境ではどうでしょう。
衣服の意味も変わっています。
ユニクロが出てきて以降、使い捨ての意識が強く働く人も多いでしょう。
黄ばんだら捨ててしまえ、という意識も出てきます。
必要に応じ、クリーニング屋に行った方が安いと感じる人もいるでしょう。
そうそこに、もう一つの道がありませんか?
5年間使うことを前提とした洗濯機です。
基本性能はほどほどですが、「便利に」を主眼にした洗濯機です。
私は、これもありだと思います。
コンセプトが全く違いますので、同じ洗濯機と言えども、全く異なる印象です。
日本の製品はよく「ガラパゴス」と言われます。
しかし、それは島国である日本という文化に馴染んでいる結果であり、卑下することはありません。
iPhoneがイイと言っても、お財布携帯機能はないのですから。
多分、そのカテゴリー(今回は洗濯)の商品を出す時に、幾つかのコンセプトができると思います。
コンセプトが認められ、そのコンセプト通りにできている限り、その商品はイイ商品と言えることができるのでは、と思います。
あれこれと考えるヒントが多いセミナーでした。