復活のフィリピンコーヒー、復権なるか?
18世紀、スペイン王妃がご贔屓にしたコーヒーの実力は?
フィリピンのコーヒーが、世界生産で第四位・・・。
今は違いますが、18世紀にそんな時期がありました。とても美味しく、当時スペイン領だったフィリピンのコーヒーは、スペイン王妃より「The True Barako」という称号をもらった位です。しかし、18世紀にの終わりに、病気、虫による被害が広がり、壊滅に追い込まれます。以降、フィリピンコーヒーの名前が、国際的な注目を浴びることはありませんでした。
しかし、今、時代はスペシャリティコーヒーの時代。少量生産といえども、美味しく、希少価値の高いコーヒーを求め、コーヒーハンターが世界中を駆けずり回る時代です。一度は壊滅したフィリピンコーヒーがその美味しさ、希少価値を背景に復活しようとしています。
■おいおい普通の試飲会のレベルじゃないだろ!
フィリピンコーヒーの試飲会しますということで、私は先日、六本木にあるフィルピン大使館に行きました。そこで出された、5つのコーヒーはいずれも、美味しかったのですが、1つは傑出していました。ほかの4つが「いいね」でしたら、1つは「すげーーーーっ」というレベルでした。そう、他のが試飲会レベルなら、1つ競技会レベルの味に会ったのです。
コーヒー豆がすごいだけでなく、腕によりをかけて焙煎したのだと思いますが、香りが濃厚。バニラ他、強い香りが3つ、微香も含めると7つ位の香りが、ハーモニーを奏でます。なかなか、嗅げるものではありません。コーヒーの香りが特に際立つのは、焙煎。香りを堪能したいのでしたら、焙煎コンテストの観客となり試飲されることをお勧めします。
コーヒーは、豆の種類、育成から始まって、豆の扱い、焙煎、挽き方、抽出方法に至るまで、味も、香りも全部変わってきます。中でも、香りを左右するのは焙煎。焙煎で香りの出方は、すこぶる違ってきます。このため、焙煎コンテストは、香りが大きなウェィトを占めます。飲食できる嗜好品は「香り」命が基本です。すぐに失われるこの香りの体験こそが、至高の体験こそが、嗜好品の醍醐味なのです。
■リベリカ種
いい香りで、私を魅了したコーヒー。豆の欄をみると、「リベリカ種バラコ」とあります。
えっと思いましたね。今、コーヒーで幅を利かせているのが「アラビカ種」。セブンイレブンのCMにも「アラビカ種」という言葉はでてきたと思います。香り高い、上品な、すきっとした味が特徴です。世界生産シェアは、8割共、9割共言われています。現代コーヒーを代表するコーヒー種です。
コーヒーは「ブラジル」「キリマンジャロ」「モカ」などの名前がありますが、これらは全部産地名です。ブラジルは国、キリマンジャロは山、モカは港町の名前です。コーヒーは土壌、天候の影響で味が変わるので、同じアラビカ種でも多種多様の味になります。このため、この範囲で栽培されたコーヒーですということで産地の名前が使われるようになったわけです。
次に多いのは、「ロブスタ種」。野生味溢れる、強い、どことなく土っぱさを感じさせるコーヒー種です。単独で飲まれることは少なく、南イタリアでは、アラビカ種とロブスタ種を「ブレンド」して使います。南イタリアのエスプレッソは、どろっとした舌触りの、荒々しい濃厚さが特徴。慣れると、この味、病みつきになります。ロブスタ種をブレンドすることにより、強い味になります。
そして最後にくるのが、リベリカ種です。市場に出ている豆は・・・、私は寡聞にて私は知りません。
私が知っているのは、ハワイのコナコーヒーは、虫対策のため、リベリカ種の株に、アラビカ種を接木して作ると言うことです。
虫害は一つではありません。コーヒーの実、葉など、虫種により、いろいろなところが攻撃されます。美味しさトップのコナコーヒーの悩みは、線虫。すごく小さな虫でコーヒーの樹の根を食べてしまいます。ハワイ諸島では、土壌の中に潜みます。この線虫に対抗策が接木です。弱いアラビカ種の代わりに強いロブスタ種を植え、それにアラビカ種を接ぐのが一般的ですが、コナの線虫は強く、それでもダメなのです。で、使われるのがリベリカ種。リベリカ種はその位強いとも言えます。
それがなりより証拠には、というわけではありませんが、樹の高さが全然違います。アラビカ種が、2m程度なのに対し、リベリカ種は、13〜18m。18mの樹からコーヒーチェリー(完熟したコーヒーの実。さくらんぼのように赤くなるので、チェリーと呼ばれる)を採取している写真を見せてもらいました。
しかし果実を扱う農家にとって、背が高い樹は扱いにくくて仕様がありません。2mなら、近寄ってサッと実を取ることもできますが、10m以上だと梯子が必要。非常に効率が悪いのです。それでもリベリカ種を使うなら、美味しくなど、栽培するだけの意味を持つ必要があります。
未知のコーヒー種を見つけるのより、見つけたものを育成、ビジネスに乗っけるのは大変な手間暇が必要なのです。新しいコーヒーを世に出すという行為は、単なる宝探しより、よほど大変なのです。
■フィリピンのリベリカ種バラコ
フィリピンでコーヒー栽培が始まったのは、1740年。スペインのフランシスコ修道会に持ち込まれたのが始まりとされています。場所は、バタンガス州のリパ。「低地」です。そして、このリパを中心に栽培が盛んになります。
普通、コーヒーは一日の寒暖の差が大きい方が美味しいです。世界最高のコーヒーに常に名を連ねる「ブルーマウンテン」はその中の通り、山の斜面がコーヒー農園になりますし、コナコーヒーも山岳地帯で育てられます。しかしフィリピンは、コーヒー種が違うためなのか、土壌、気候のためかはよく割りませんが、低地です。
そして名を馳せ、時のスペイン王室が褒め称えたのが、リベリカ種バラコ。バラコとは「強い」という意味です。私が味わったのは、その現代版ですが、香りも味も濃厚な味わい、至福のひと時でした。
しかし、19世紀後半(1880年頃)、さび病が世界的に大流行します。世界のコーヒー産業は壊滅的な打撃を受けます。ただ、今のようなグローバル時代ではないので、流行もゆっくり。ブラジル、アフリカ、インドネシアがさび病で困っている時、まだフィリピンはさび病が流行していません。このため、世界需要のかなりを賄うことになったわけです。
しかし、1889年にさび病がフィリピン上陸。その時は、同時に虫害も発生したそうです。とことん叩かれたわけです。上陸後、2年間で生産量は1/6以下に減少したそうです。こうなると、衰退の一途。フィリピンのコーヒーは細々と続けられることになります。
そして1950年頃、これらに免疫力を増した品種が栽培されるようになったわけです。しかし、全盛期の面影はなく、細々続けられていたわけです。
こうして、島国であるフィリピン、手狭なところに、「アラビカ種」「ロブスタ種」「リベリカ種」「エクセルサ種」の4種が並び立つことになりました。一種のコーヒー博覧会のようなところがあります。
これは20世紀のように、とりあえず大量生産という時代でしたら、フィリピンコーヒー、特に生産効率の悪いリベリカ種バラコの復活はなかったでしょう。
■21世紀はスペシャリティの時代
しかし今、時代は「スペシャリティコーヒー」の時代。
スペシャリティコーヒーは、かなり曖昧なところがありますが、日本スペシャリティコーヒー協会では、次のように定義されています。ホームページから引用させていただきますと、
「消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。
カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。(From seed to cup)」
なにやら、すごい定義のようですが、「バランスのとれたおいしいコーヒーであること、そしてそれは品質由来であるため、豆からコーヒーになるまでの履歴がはっきりしていること」です。
ここで履歴というのは、1)生豆生産国、2)生豆生産地、3)農園、4)セクション(農園内のどの畑で取れたのか)、5)農園主、6)標高、7)栽培品種、8)サイズ(コーヒー豆には均一性が求められます。そうでないと焙煎時にムラができてしまうからです)、9)原料豆輸送法、10)収穫年度などです。これに加えて、コーヒーチェリーから、コーヒーの種を取り出し、脱核する、精製法のデーターを記載してある時もあります。(コーヒー豆は、コーヒーチェリーから果肉を取り除いた種に2つ入っています。タネからコーヒー豆を取り出すことを脱核といいます)
要するに、工業製品同等の工程履歴があるコーヒーは、ワインの葡萄、日本酒の酒米並みに、厳重な管理が必要ということです。ちなみにブルーマウンテンのように、一流と名の通ったコーヒーブランドでも、たとえどんなに美味いコーヒーでも、履歴不明は、スペシャリティコーヒーとしては認められません。
スペシャリティコーヒーは高値で取引されます。
ブラックダイヤモンドと呼ばれるコーヒー豆は、先物買いの典型例。中間で利をごっそり抜く業者が多く、生産者はフェアトレードを訴えてきました。この問題は今だに片付いていません。豆の扱いも、かなりぞんざいで、丁寧に作られた豆も、適当に作られた豆も、一緒に混ぜられます。4Cのダイヤとくずダイヤを混ぜ、売っているようなものです。
しかし、スペシャリティは、全部が明快。当然、より分けて出荷されます。4Cのダイヤだけより分けて出荷しているようなものです。当然、超高値が付きますが、ポイントは、農家が手間を掛け、美味しく作った分だけ、収入を得ることができるということです。
当然と思われる方も多いと思いますが、それまで、良いも悪いも混ざった状態ですから、そうなりません。頑張っても身入りが少ない。それがスペシャリティの時代になり、フェアトレードの芽が出てきたわけです。これは、サスティナビリティを考える上で、重要なポイントです。
■フィリピンのスペシャリティ・コーヒーは面白い
そんな時、他に類を見ないリベリカ種、その昔、スペイン王室御用達。となると、コーヒー好きはもちろん、そうでない人も、飲んでみたい思うでしょう。
今回、試飲のうち、リベリカ種バラコ3種類は農園違い。しかも、うち一つはバラコ種の原木が敷地にあるとか。なんか、旧家のお宝を整理していたら、どんでもないお宝を見つけた感じですね。でも、これは絶対飲みたいですよね。ちなみに見つけられたのは、リッチ・渡辺さん。ハワイのコナコーヒー、またブラジルのコーヒー園(アントニオ猪木が少年時代働いていたのは有名ですね)も日系の方が頑張っていますが、フィリピンもそうでした。日本人とコーヒーはかなり深い縁があるのでしょうね。
また低地では海の近くの農園、海のミネラルをたっぷり含んだ土壌を持つ農園が育てたバラコ、また、19世紀にはなかった、山の農園で採れたバラコがありました。
加えて、アラビカ種が2種。これだけの多彩さを誇れるエリアはあまりないと思います。
また、リベリカ種の特徴として「大きい」ということを書きましたが、これは焙煎に時間がかかるので、いろいろな工夫ができるということでもあります。その意味でも期待ができるコーヒーということができます。
今回、フィリピン大使館が、こうやって日本でアピールしたわけですが、その中の一つに日本の商慣習があげられると思います。日本がブルーマウンテンを、英国の商事(ジャマイカは英国領でした)を通じブルーマウンテンを輸入した時、たいそうな金額を中抜きされていました。それが、FAXの送付ミスで日本の知るところになるのですが、日本はブルーマウンテンの生産者に、次のように持ちかけたと言います。「日本の買い値は今まで通り、残りはあなた方がとってくれ。」
要するに、不正中抜き分を、生産者に還元。フェアトレードにしたわけです。
商売の言葉に「損して得取れ」という言葉がありますが、以降、ジャマイカは日本との取引を大切にしたと言います。
実は、日本人のフェアさは、世界に有名。世界的なメガロポリスでもある東京には、いろいろなモノが集まりますが、一つの大きな要因になっている様、思います。
それはさておき、フィリピンコーヒー、あまり聞かないからちょっと遠慮ではなく、是非飲んでください。すごーく美味しいです。当然、一番最初はバラココーヒーをお勧めします。
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2022年10月25日
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