コシヒカリのお話
嗜好品としての米02
米は日本の嗜好品という話を以前書きましたが、米の食味基準はコシヒカリです。
お米を追求する前に、コシヒカリに関して説明したいと思います。
■米があっての日本
江戸時代、江戸は世界最大の都市でした。人口においてはですけど。
ヨーロッパを移動するとすぐ気づくと思いますが、凹凸がありません。少なくとも山が海岸近くまで迫ってくる日本とは大きな違いです。しかし人口密度は日本が圧倒的に多いです。つまり少ない耕作地で多い人口を養っているということです。
それを可能にしたのは、日本の主食が稲だったからです。小麦ではこうは行きません。
ある人の計算によると、同じ耕作面積で10倍の人を養えるそうです。
ライス・マジックと言うべきかも知れません。
よく「アジアは豊饒の地」と言いますが、それは米を主食にしているからだと言えます。
さらに言えば、そのアジアの中でも日本は面積当たりの収穫量が高いのです。
「八十八」の手間が掛かるので、こめは漢字で「米」と書くのだと言う人がいますが、日本の米は正に手間を掛けて作り込まれています。
■コシヒカリの名産地 魚沼
新潟と聞くと、人は米処、米が美味いとか、日本酒もイイと思い浮かべると思います。
しかし、米は元々南方の植物です。
寒い地域、特に水の冷たい地域では何の努力もなく、稲がガンガン実るということはありません。
しかし新潟という寒い地方。その中でも標高が高いため、水温も冷たく、土地が痩せている魚沼がコシヒカリの名産地です。
それは先人の努力の賜物です。
■農林試験場に課せられた課題
現在、日本全国で色々なブランド米が作られていますが、コシヒカリはその初期の米です。
話は終戦直後から始まります。食料が足らない時代です。政府が全ての米を一定の価格で買い、国民に供給した時代です。
この時、米への要望は病害虫(特にイモチ病)に強く、収穫量の多い品種が良いとされました。食べるのに必死だった時代の要請です。
しかし水が冷たく、土地が痩せている魚沼で、それまでの米は大した収穫を得ることができません。このため新潟県の農業試験場に、魚沼のような土地でも十分な収穫を得ることができる新しい品種が要望されました。
この改良に従事したのは、寒冷地の山形でも安定した多収穫ができる「尾花沢一号」を開発した杉谷文之 氏でした。
コシヒカリの元となる品種の位置づけは、病害虫への強さは並。収穫量は少ない。しかも草丈高く倒れやすい。という即行NGを出されそうな特性。しかし、熟色は極めて良好(通常の稲が黄に対し、黄金色)にして、味も良好という長所はありました。このため杉谷 氏は、この品種を候補に残し改良します。栽培法で徹底的に欠点をカバーしたのです。
そして越の国で黄金に輝くという「コシヒカリ」と言う名の米が誕生します。
しかし大量の収穫が見込まれる品種ではありませんでした。
■ニーズが変わり、米に味を求める
1960〜65年は、戦後のベビーブーム(いわゆる団塊の世代)が食べ盛りで米が足りない状態でした。日本は増産を重ねます。しかし彼らの食欲が落ち着くと、米は余ります。1970年は1100万トン/年の消費に対し、720万トンの備蓄があったと言いますので、8ヶ月分位、米が余った訳です。
政府が取った措置は減反。1969年から実施です。また米の一部自由化「自主流通米」の実施に踏み切ります。要するに、付加価値があれば、高く販売してもよくなったのです。
コシヒカリはこれで息を吹き返すわけです。
そして最終的に、宮城ササニシキ、庄内米、近江米等、その当時のブランド米より美味しいとされ、「日本一」の座を手にするのです。
更に外米なども日本の市場を狙います。日本の農家は味で市場を守るわけですね。
即NG品種が、日本の農家を救ったわけです。
この話は、NHKの「プロジェクトX」でも取り上げられた2000年10月24日放送 第26回 「うまいコメが食べたい」(コシヒカリ・新潟県長岡農業試験場)位ですので、詳しく見て行くと、本当に山あり谷あり、涙々です。
■今の米は・・・
食味の良い米は、南の穀物である米の進化方向からすれば、特異的な感じがします。
極端な言い方をすると、植物をいじめて育てるという感じでしょうか?
例えば、「雷が多いと豊作」という諺があります。これは落雷すると、その土地に窒素が栄養素として入り、稲の生育を助けるためですが、窒素分が多い米はタンパク質が多いため、雑味の多い味になります。
つまり豊作と食味は相反する訳です。
最近のトレンドは、コシヒカリを改良した低アミロース米です。これは、本当に美味い。香り、甘味、モチモチした食感、全てが高次元でバランスが取れています。
生産は、昼夜の気温差が15℃以上ある所が望ましいと言いますので、平野ではなく山間部です。当然収穫量もそれなりです。
更に、今、求められているのは、安全性です。
低農薬。できれば有機栽培が望まれています。実は有機農法だと生産量が落ちる場合がほとんどです。一定量が確実に収穫できるまでに、5年以上掛かることが多いと聞いています。美味しさ、安全を両立させるのは、本当に難しいことです。
■スペシャリティー・コーヒーの考え方を、日本のお米にも
現在、コーヒーでは、スペシャリティー・コーヒーが全世界の注目を集めています。生産量は、全体の2割ですが、「美味い」という付加価値で高く売れます。これは買い叩かれて生計の成り立たせが難しかったコーヒー生産者からの提案だと聞きます。要するに、美味いコーヒー豆で、利を取らせてくれということですね。
先日のSCAJ 2013(スペシャリティ・コーヒー・アソシエーション・ジャパン2013)で、ローストの世界選手権に出されたコーヒーを味あわせて頂きましたが、その香りの複雑さ(紅茶、パッション・フルーツ、マンゴー、バニラなど)と雑味のない味は、確かにお金を出す値打ちがあると思いました。
映画「おいしいコーヒー」で描かれていますが、経済優先の世の中。これが難しい。
私は、コシヒカリを含むブランド米も、スペシャリティ・コーヒーのようにすべきと考えております。
が、しかし、本当にお米を美味しくいただく方法はコーヒーのように議論されていないと思います。
今後、家電メーカー様のご協力の下、精米機、炊飯器を駆使して、より美味しいお米を追求して行きたいと思います。
■補足
本日、宮城でササニシキの復活の試みがネットに掲載されました。これは朗報です。
ササニシキはコシヒカリがメジャーになるまでの最高ブランド米。ややあっさり目の食味ですが、米の選択にも幅がでます。
いろいろな食味の米が出てくると、「ブレンド」技術も見直されるかも知れません。
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2013年9月30日