【マスクの選び方】マスクの品質基準「JIS規格」とは何か?(前編)
〜マスクに適用されるJIS規格とは〜
「JIS規格」というのをご存知ですか。私がJISを知ったのは鉛筆です。鉛筆に金色、銀色で印刷されたJISマークはとてもキレイでした。小学生ながら自分はちゃんとしたモノを使っているんだという気になりましたね。
私が小学校(1970年代)当時の名称は「日本工業規格」。その工業製品に必要とされる機能を規定していました。しかし2017年に日本の国民総生産でサービス業ウェイトが70%を超えたために、「日本産業規格」と名前を変えました。サービス規格が追加されたのです。
工業製品の一部はあるレベルの品質をクリアしないと、人命に関わることがあります。このためメーカーは、自社で品質規格を設け、トラブルが起きない様にします。ところがメーカーが中心になると、当然どんどん厳しくして行きます。多様化、複雑化するのですね。品質を重視しすぎて、あるべきモノと違うモノを作ってしまうのです。また逆に十分な品質でないにもかかわらずお金を稼ぐために出荷してしてしまうメーカーもあります。
こんなことが起きない様に、メーカーは、その製品の「工業会」を作り、トラブルが起きない品質を決めます。これが「工業会規格」です。しかし、工業会メンバーでなければ、この規格を守らない場合があります。
JISは、それの「日本国版」です。日本すべてのメーカーが守べき品質とされる訳です。これより上の規格はISO(International Organization for Standardization(国際標準化機構))です。
今回は、ここ2年、国民全員が手放せなくなっているマスクの認証に関するお話です。ちなみにマスクに関しては、JIS認証されても、JISマークは使われません。以下の表で、認証された=規格適合品であることを示します。
◾️マスクは多目的のため 公的な「規格」がなかった
お医者さんがしているマスク。よく「医療用」と書いてあるマスクもありますが、JISが制定されていませんので「自称」です。要するに「各メーカーが自分で定義し、そう称していた」わけです。マスクの位置づけは、最後の砦ではなく、「簡易防具」ですからね。
例えると、頭を守るのにヘルメットではなく、帽子を用いる様なものです。ないよりはあったほうがいい。少なくともヘルメットより快適で、動きを妨げない。しかし、守りきれない瞬間がある。仕方がない。帽子にはファッションの要素、熱中症などを避ける要素もあります。この様に多用途品は、規格化し難いのです。何に使うのかで、規格が全く変わってくるからです。
マスクもそんな感じの位置付けでした。
◾️品質認定は花粉症から
しかし、日本では大変な病気が発生します。「花粉症」です。ざっと、日本人の1/3が花粉症だと言います。原因は、過剰なスギ花粉。
東京に杉並区という地名があります。人里で杉が並んでいたためです。それが地名になる位、杉は人里遠くにある樹だったわけです。ところが、高く売れるとして植林で過剰に植えてしまった。ところが海外から安い木材が入るようになった。日本の杉は高いですからね、当然余ります。それでも高く売れるとして、杉、檜を植えます。杉は風媒花ですから、花粉を風で飛ばします。植物も生物。生物は本能的に子孫を増やそうとしますので止まりません。それまで、適度な花粉量だったのが、過度な花粉量になるわけです。少ない場合は、人間は体内で勝手に折り合いを付けます。ところが、それが過度の場合は、人が対応できる許容量を超えます。で、発症。今日のブームのような花粉症は、日本の林業施策が引き起こしたとも言えます。
閑話休題。
それはさておき、スギ花粉のサイズは、30〜40μm。かなり大きい。これを防ぐために春先、マスク着用者がすごく増えます。
ところがマスクは、ピンキリ。性能を分かりやすくするには、数値化しなければなりません。それで作られたのが、「花粉粒子補修効率」です。
そして、花粉に関して、「花粉問題対策事業者協議会」(以下、JAPOC(ジャポック))が規格認定の面倒をみます。JAPOCが制定した規格を満たした製品・用品には、その証として、同協議会が定めた花粉問題対策のシンボルマークが表示されます。当然、健康意識高いメーカーは、審査を受けます。現在販売されているマスクのパッケージに表示されることもあります。
これが付いているマスクは、正しい装着をしている限り、ほとんど花粉を吸い込まずに済むと言うことです。
ただし、JAPOCの知名度はまだまだ。きちんと説明されなければ、何が付いているのか、わかりません。
◾️続いて感染症
花粉症の次はウイルス感染症です。ウイルスは「人類の、最小、最大の敵」とまで言われています。
ウイルスがそこまで言われる理由は、その増え方にあります。ウイルスと並び称されるのに「細菌」があります。細菌は人間と同じ細胞基準。このため細胞分裂で増えます。1→2→4→8と倍々に増えます。これは人間の白血球も同様、細胞分裂で増えますから、人間の免疫システムが遅れをとることはありません。
しかし、ウイルスは細胞を持ちません。増える時は、宿主の細胞に入り込み、コピーを大量に作ります。1→20→400→160000と言った感じです。当然、体を防御する白血球は数で後手に回ります。ウイルスも増殖はだんだん頭打ちになりますので、白血球などの増殖が追いつき、最優的には対応できる形になります。ですが、初めの白血球の数が少ない間は、ウイルスが大攻勢を掛けます。この期間を乗り切るのは、基本、体力となります。また、この時医者にかかっても特効薬がない場合、熱を抑えるなどの対処療法ができるだけです。とにかく、体力を温存するし、それで乗り切るしかありません。
そんな怖いウイルス感染症ですが、感染方法は基本3つに分かれます。「接触感染」「飛まつ感染」、そして「空気感染」です。「接触感染」は、所持者と触れ合うことにより感染します。特に危ないのは「口」ですね。キスもそうですが、感染者と触れ合った手を無意識に舐めて、アウトな時があります。コロナは「飛まつ感染」だと言われています。飛まつというのは、唾き、くしゃみなどで飛び散る超微細な体液のことで、その中にはウイルスが大量にいるわけです。その飛まつが体内に入り込むことによりに感染します。しかもコロナウイルスは、この体液が固体、モノに付いても、すぐには不活化しません。数日は感染するというのですから、酷いものです。しかし、本当に手に負えなくなるのは「空気感染」。これは空気を漂っているウイルスで感染します。
そして、間違えないで欲しいのは、「飛まつ感染」は「接触感染」でも、「空気感染」は「飛まつ感染」「接触感染」でも感染するということです。とにかく感染症は、このルートを断ち切ることが重要です。
マスクは、この飛まつを拡散させない、直接受けない機能があります。ただし飛まつのサイズは、小さいものは5μmと言われています。要するにウイルス防御を目的としたマスクは、最低、5μmの飛まつを防がなければなりません。
例えば、アベノマスク。あんな雑な作りでは、この様な機能は持ちません。スカスカです。マスクをすることの啓蒙と言う意味はあるのかも知れませんが、現場では役に立ちません。むしろ今回は、あのレベルでもお金になるんだと、海外から低品質マスクがドッと溢れたことです。コロナ感染防止にマスクを使うなら、してはならなかったものかも知れません。
◾️PFE、BFE、VFE
販売されているマスクには、全部ではありませんが、パッケージに、「PFE」「BFE」「VFE」と言う、アルファベット3文字の略称が表示されていることがあります。それぞれ、PFE:微小粒子捕集効率、BFE :バクテリア飛まつ捕集効率、VFE:ウイルス飛まつ捕集効率のことです。
理解しておきたいのは、それぞれが対応しているサイズです。
●PFE 微小粒子捕集(ろ過)効率試験
試験粒子 ポリスチレン粒子 0.1μm ●BFE バクテリア飛まつ捕集(ろ過)効率試験
試験粒子 黄色ブドウ球菌の懸濁液 約3μm ●VFE ウイルス飛まつ捕集(ろ過)効率試験
試験粒子 バクテリアオファージ 約1.7μm
この中ですごいと思うのは、PFEですね。普通、この手のモノはPM××(××は数字)で表されるのが常。有名なPM2.5は、2.5μm以下の微粒子という意味を持ちます。この場合は、PM0.1。空気清浄機によく使われるHEPAフィルターは、0.3μmの粒子をフィルタリングできる設計ですから、なんともは不織布マスクの実力はすごいものです。
ちなみに、花粉の場合は、
●花粉粒主の捕集(ろ過)
試験粒子 約30μm
ウイルスに比べると、花粉がいかに大きいのかがわかります。
◾️JIS認定は、花粉、PFE、BFE、VFEのどれかクリアできれば表示できる
さて、今回のJIS、JIS T9001には、この「花粉」「PFE」「BFE」「VFE」のどれか、および「圧力損失」「有機ホルムアルデヒド」「アゾ化合物」「蛍光」の基準をクリアしていることです。
「圧力損失」と言うのは「通気抵抗」のことです。もっとわかりやすく言うと、「マスクをした時の息苦しさ」です。このため、思い切り細かなフィルターを搭載したマスクには、小型モーターで空気を取り込み、モノもあるくらいです。JISでは「通気性」と表記されます。
そして「有機ホルムアルデヒド」「アゾ化合物」「蛍光」は、人間に有害な化学物質です。これがマスクに付着していると危ないです。ちなみに「アゾ化合物」「蛍光」は、JISでは「安全衛生」と表記されます。
これをクリアできれば、JISに適合している旨をマスク・パッケージに表示できます。しかし、JIS表示は、「PFE」「BFE」「VFE」「花粉」の4つのうち1つと「通気性」「安全性」をクリアするとJIS適合マスクと言えます。えっと思う人もいるかも知れません。
しかし問題はありません。と言うのは、この4つに関しては、個別に適合判定がきちんと記載されるからです。
これは次の様にも言えます。例えば最も大きな「花粉」だけクリアしたとしましょう。それはマスクとして価値がないのでしょうか? いえ、コロナ禍出ない春先、花粉症の人にはおおいに価値があります。要するに「花粉対策用マスク」として、きちんと売れば良い訳です。
多目的に使われるマスクだからこそ、目的ごとの結果を表記。そのマスク品質が、自分の使用目的にあったモノかどうかが分かるという仕組みになっています。
➡︎後編に続く
【マスクの選び方】マスクの品質基準「JIS規格」とは何か?(後編) 〜マスクの製品パッケージの実表記と商品力〜
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2021年9月18日