レポート

家電メーカーの作ったマスク。
アイリスオーヤマ のマスクの優位性を検証する。(前編)


今年7月、アイリスオーヤマの国産マスクが上市されました。「ナノエアーマスク」です。夏を考慮した新しい不織布マスクです。日本は、必要マスクの生産のほとんどを中国をはじめとする海外に頼っていましたが、シャープ、アイリスオーヤマ、ユニチャームなどが、国内生産、増産を開始し始めました。今回はアイリスオーヤマに焦点を当ててレポートします。
 
◾️アイリスオーヤマのマスクビジネス
アイリスオーヤマが扱うモノは多岐に渡ります。最近は家電が有名ですが、業績が伸びたのはプラスチック製の収納ボックス。アイリスオーヤマは、ホームセンタールートに強く、グループ傘下に「ダイシン」などのホームセンターを持っているくらいです。

これからわかる通り、基本、アイリスオーヤマが扱う(販売している)ものは、ホームセンターで販売するものが中心と考えるとわかりやすいです。

アイリスオーヤマ のマスク。
私が入手したものは、MADE IN CHINA と記載されていた。


2007年にマスク市場に参入したアイリスオーヤマは、中国に設けた自社工場で生産してきました。場所は、大連と蘇州の2カ所。マスクの中国生産は当然と言えば当然。今のマスクの基本は「フィルター付き」で「使い捨て」。材質は「布」と「不織布」双方があります。

 
◾️マスク性能はフィルターがポイント
「衛生用品を使い捨てにするのは現代医療がそのような考え方だからです。高価な機器、器具は洗浄、滅菌して使うのですが、そうでないものは廃却、焼却。感染を断つための措置です。このため安く作らなければなりません。当然有利なのは「不織布」。布は主にガーゼが用いられるのですが、フィルターが入っているとは言え、ガーゼだと形が整いません。このため、布地の場合は多層重ねます。それだけ考えても安くは作れません。

シャープのマスクをバラしてみた。
フィルターを不織布でサンドした、3層構造になっている。
不織布マスクの最も一般的な構成と言える。


しかし、それでも布マスクが商品として成り立っているのは、性能はフィルターで稼いで同等であり、付け心地に勝るからです。肌の弱い人などは、布マスクでないとダメだと言いますし、長時間つける場合も布の方が楽だと言います。

 
◾️マスク迷走曲
コロナ禍の今、日本で流行っているのは「布マスク」。本来、感染病が流行している場合、不織布マスクの方が安く使い捨てられるので、ベターなのですが、今年の2月、中国で生産するマスクが輸入できなくなり、マスクの供給は需要に全く追いつけないと言う非常時が発生します。

その時、政府肝入りで配布したのが「布マスク」。で、その説明の中に、「洗えば、また使える」とありました。ですが、このアベノマスク、「小さ過ぎる」上、「不良品が混入」していたため「配布がノビノビ」。しかも「フィルター」が入っていないた目、飛んでくる飛沫に対して「防御できない。」と言う、驚愕の三重苦マスク。

これなら「私が作る!」という感じで、多くの人が自作されるようになります。

 
布マスク=手作り可能ということで、どっと衣類メーカーが参入。折しも、外出自粛ですから、衣料品のニーズは減。渡りに船とだったわけです。しかし、しっかりしているメーカーはフィルターを入れていますが、多くのアパレルブランドは入れていないのが現状です。

まぁしかし、海外の有名ブランド、コロナ禍で倒産の憂き目にあったブルックス・ブラザース、ヴァレンチノなど、名だたる有名ブランドが作ったのにはびっくりしました。こちらは、防御できなくても、所有欲はでてきますね。ちょっとかっこいい。

思わずポチってしまった、炭治郎の羽織柄布マスク。(人気の鬼滅ですね。筆者私物)
「オレは長男だから」と言っても、「水の呼吸」をしても、コロナウイルスは防げない。


これらの多くは、手縫いに近いものです。逆な言い方ですが、少量生産が可能なので布マスクは急激に立ち上げることができたのです。中国での生産もそうだと思います。2020年2月に倍増。36億枚/月になったのは、間違いなく、ほとんどがフィルターなしの布マスクだからです。要するに人海戦術です。しかし、逆に多くの人が関与するので品質が安定しない。事実、品質未達ということで、中国政府が援助したマスクが多くの国から送り返されました。

 
同じ時に、日本政府は、補助金を出し、日本メーカーにマスク生産を募ります。が、緊急を要するとして「短期立ち上げ(約1カ月)」を条件とします。不織布マスクは大量生産可能ですが、「原材料の確実な確保」が必要ですし、品質保証のため「クリーンルームでの生産」が必要です。言い換えると、工場の建屋が自在に使えるとしても、改装してクリーンルーム化、クリーンルームの中に生産設備の設置、材料の確保、そして品質確認しながら立ち上げが必要ですから、通常は早くても3カ月かかります。

 
◾️1ヶ月で立ち上げたシャープにびっくり
1カ月という短期で「フィルター付き不織布マスク」を立ち上げることができたのはシャープだけです。これはシャープが液晶パネルを国内で生産しており、その生産数量が減ったために、「有休状態のクリーンルームがあった」からです。またシャープの親会社、台湾のホンハイも自社の従業員で使うために昨年末よりマスク生産をはじめています。要するにお手本があったわけです。だからこそ、国内生産を2月に決めたシャープは3月に生産、出荷することができたと思われます。

シャープマスク外箱。50枚入の箱売りのみ。


マスクには、シャープのロゴ。


では、アイリスオーヤマの場合はどうでしょうか?

アイリスオーヤマは今回、マスクの国内生産に対し、約30億円もの投資を行いました。月産:1億5000万枚(2020年8月に達成見込み)を実現するためです。内容は、(1)関連建屋へのクリーンルームの導入、(2)マスクの自動生産ラインの設置と立ち上げ(40ライン分)、(3)必要材料(不織布他)の国内生産です。投資の理由は、政府に請われたこと、国民の役に立つためですが、その中には、しっかりとしたビジネス見通しがあるように思います。

 
◾️アイリスオーヤマの国産マスクライン
仙台から東北本線で南に行くと角田市があります。そこにアイリスオーヤマの中核の一つ、角田工場があります。広報から「JR船岡駅が近いですよ」と言われて、電車に揺られて行ってきました。(Go to より前です)

角田市は、「市」になってはいますが、ちょっと行くと山に入ってしまいます。川も流れています。かの阿武隈川です。自然豊かなエリアで、高い建物は学校、マンションレベル。駅からタクシーで山の方へ。途中道の中央を示す白線がなくなる位の道を通ると、丘一つ丸ごとという感じの角田工場が姿を表します。

敷地内には建屋とともに、幾つもの駐車場。クルマがないと自由に行き来できない雰囲気です。それは人から見た時。工場の場合、「輸送」という見方をしなければなりません。特に、プラスチックの収納ケースなどは、空気を運んでいるようなところがあり、輸送によるコストロスがすごく大きい。このために山間でも高速のインターチェンジの近くなどに作るのがセオリーです。(地方の場合、クルマを一人一台持つことも珍しくありません。)

アイリスオーヤマ の敷地内より外を望む。
実に緑がきれい。


さて、マスクの新設生産ラインですが、複数ある建屋の1つ、2階にありました。部屋はかなり大きく、ざっと30×20×4mくらい。当然クリーンルームです。中に入っているのは、8ライン。最終的な40ラインへの始めの一歩というわけです。

マスクの生産ラインは「ライン」なのですが、かなりコンパクト。マスク幅にカットされた、2種3個の不織布と、ノーズフィット用のワイヤーが送り出し部にあります。次の工程で、それらを重ねて「超音波溶着」。超音波溶着は汎用性が高い技術で、ホチキッスのようにタマなどがなくても、それぞれの部材を止めることができます。身に付けるモノですから、安全性は高くなければなりません。

送り出し部。


そのあと、プリーツ折りし、また溶着。最後に耳ひもを溶着し終了。マスクの性能品質はフィルターの役割ですので、工程品質としては、正確にカットされていること、溶着が長期使用でも外れないことです。

これで大体、1ライン。かなりコンパクト。


ちなみに、不織布マスクも洗って再利用できるとする記事も見受けられますが、それを保証するには溶着強度を「洗いも可」レベルに上げる必要があります。メーカー側は、そのような品質保証はしていないので、このような話は、「くれぐれも自己責任で」、です。(これは市販の布マスクにも言えることです。必ず取扱説明書、他で確認してください。)

 
中のオペレーターの人数も少なく、最終的にはAIでの自動生産を目指すとのこと。今回、100人の新規雇用もありますが、今までのような、単純ラインオペレーターではなく、「令和ならでは」の、仕事形式になりそうです。

当日は、8ラインのうち、4ラインが新製品「ナノエアーマスク」を生産していました。このナノエアーマスクこそ、アイリスオーヤマの今後のマスクビジネスに大きな意味を持つマスクです。

 
To be continued
後編へ続く。

 
商品のより詳しい情報は、以下のURLでご確認ください。
http://www.irisplaza.co.jp/Index.asp?KB=091014efeel#range
 

 
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2020年9月3日

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