マスク国内生産の意味。
アイリスオーヤマ のマスクビジネスから見えてくるもの。
日本は、マスクの80%近くを中国で作り、輸入しています。では、実際にどの位の数量が動いているのでしょうか。日本衛生工業連合会のデータによると、2018年で、国産:輸入=9300万枚/月:3億6900万枚/月。総計:4億6200万枚。政府の発言にも、マスク需要のピークは、例年3月で5.5億枚とありますので、コロナ禍なく、花粉症とインフルエンザだけだと、このレベルで十分なはずでした。
■日本で流通するマスクの8割が輸入品
しかし、コロナ禍が発し、マスクが必需品とされました。需要の急増です。
その上、前述したデーターの通り、日本で使用するマスクの8割が中国製造です。この中国で製造したマスクが輸入されないことが起こりました。
当件に関し、中国政府、外交筋は、規制をした事実はない、と否定していますが、実際はあったようです。というのは、経産省のホームページで、マスク関連の情報を見ますと、「2月17日の週から数社で、中国などから1千万枚レベルで輸入を再開」とあります。再開ですからね。輸入が止まっていたわけです。当然、需要に対して供給が全く追いつかない状況です。大きな供給元が断たれたわけですから、店、流通、メーカー在庫も全て吐き出してしまい、2〜3月はマスク大狂騒曲が流れたわけです。
■必要なマスク数は?
では実際、このコロナ禍でどの位のマスクが必要なのでしょうか?
花粉症など違い、コロナの場合は、国民全員マスクが必要です。無自覚感染の人もいるわけですから、非常時のエチケットでもあります。そうでないと(満員)電車など、怖くて乗れません。
それを前提にして需要を考えると、ざっくり日本の人口が1億2千万人で、毎日替えるとします。一月30日ですから、36億枚。まぁ、30日はオーバーですから、20日で計算しても、24億枚。すごい数字です。しかしこれでも、市中在庫、予備のマスクを持つなど考えていない状態です。
布マスクは消毒して、再使用とは言え、これ位は必要でしょう。
当然、国内生産、輸入分を足した、5億枚では到底足りません。
実際は、ここまで必要ではないでしょうが、1月末週のニーズは15億枚とする人もおり、少なくともマスク供給に対する危惧がなくなるには、増産に次ぐ増産が必要です。
今回、日本がグルーバル化されて初めて日本にも新型の感染症が上陸したわけですが、これを見ただけで、日本はパンデミック危機に対する見通しが甘く、準備が不十分だったわけです。
■政府のマスク増産策は、少なすぎる
中国は3月6日に、月あたりの生産量を6倍にしたと言っています。具体的には36億枚。で、中国政府は欧州ほか色々な国へマスクを送りますが、同時に、品質不十分で送り返されたことも報じられました。
マスクは衛生用品です。このため工場の清掃などはトップクラス、できれば全てクリーンルームの中で作業すべきものです。正直、6倍という数字には驚嘆しますが、中には不適切なものもあるのではと思われます。
マスク、いわゆる工業製品を増産するには、
1)稼働時間を増やす
2)ライン改造を行い、タクトをあげる
3)新ラインを増設する
という3つの方法があります。
1)は人数の問題、2)3)は、技術と投資額の問題が出てきます。
このため日本政府は、増産要請を国内メーカーに発し、1)を行ってもらうとともに、補助金を出すことにより、2)3)を進めることにします。補助金は最高1ラインあたり3000万円出ますが、火急の時ですので締め切り後、2週間で増産が条件です。これでは、前々から用意でもしていなければ、新規工場を建てるようなことはできません。
この中で目覚しかったのが、シャープです。液晶パネルの生産が落ち、余剰になったクリーンルームの中に、マスクの生産設備を設置。見事2週間で生産にこぎつけました。シャープは力を結集し、頑張ったのでできたと言いますが、そう簡単にできることではありません。
政府の補助金を使い、増産に応じたのは、3月末で、シャープを入れて計12社。増産数は、総計約5000万枚/月。これで国産は、倍とは行きませんが、増産前の1.5倍の数量を作れるようになったのが現状です。ただし、ある程度経済活動をしながらとなると、マスク着用はコロナ禍を防ぐためには、少なすぎるのではないかと思います。
◾️アイリスオーヤマのマスクビジネス
このような状況の中、アイリスオーヤマも国内生産を決めました。
レベルは、6000万枚/月。これまで、12社で5000万枚/月ですから、すごく大きい増産だということがわかると思います。投資額は10億円。生産開始は6月予定。
「シャープのマスク」についてのレポート記事でも書きましたが、マスク増産には、幾つかの要素が必要です。アイリスオーヤマに、そこを尋ねてみました。
1)原材料の確保について 回答 日本の原材料メーカーから納入される。また、中国の自社工場からも輸入する。
2)設備の確保について 回答 新規に購入。確保済。生産技術は、中国で生産していることでも分かる通り、持っている。
3)クリーンルームの確保について 回答 新規。
4)工場の確保について 回答 宮城県角田工場。
非常に明確な答えを返していただきました。投資額の10億円ですが、主には、設備とクリーンルーム確保に使われます。すごいと思ったのは、原材料を、中国ですが、自社で作っていることです。
ただ、これでもビジネスプランとしては、足りませんので、追加質問したところ、販売ルートは現在取引があるところと、自社ECサイトに新規取引先を加える。売価は、基本今までと同じ。ただし、原材料は値上がりを始めており、予断は許されない。
事業は、中国も生産を維持するので、1億4000万枚/月となるそうです。
ちゃんとしたビジネスプランを語っていただけました。
■アイリスオーヤマの増産が意味するもの
実は、日本で、マスクを作っているメーカーは、かなり多いです。しかし、その多くは中小企業。上場一部は数社です。しかも布マスクを作っているところが多い。要するに、古いラインを駆使して、頑張っているメーカーがほとんどなのです。
今回、政府が補助金を出すメーカーも、その多くは布マスク。古いラインでタクトが上がらない要因、例えば耳掛けのチェックをカメラとAIで行うなどで、増産できるようにしたわけです。確かに改造ですから短納期ですし、それなりの成果は出せます。が、今の爆発的な需要には追いつけません。おそらく、布マスクを2枚、全世帯に渡して、使い回すという発想は、このような背景から出たものと思います。要するに、不織布マスクが大量に出回るまでの時間稼ぎです。
この爆発的な需要に追いつくためには、1にも2にも不織布マスクのラインを新設することです。タクトも早いので、数量も稼げる。値も安くできます。
確かに、6月稼働なので政府の補助金は受けられません。しかし、代わりに生産数を稼ぐことができるラインを作ることができます。補助金は、短納期条件だったので、今あるラインの改造に止まった。しかし、視野を広げると、世界中が、感染症と戦うためにはマスクが不可欠ということがわかったわけです。そうすると販路を見つけられると踏んだわけです。それらを踏まえてのアイリスオーヤマの国内生産は、いいビジネスモデルと言えます。
また、大手のスズランも、2022年1月稼働で増産をかけています。このために、消毒液なども込みですが、35億円で工場を中国に作ります。こちらは工場からですから時間がかかるわけです。面白いと思ったのは、「稼働が2年後でもマスク需要がある」と判断していることと、「中国に作った」ということです。多分、世界販売を考慮してだと思います。
このように、かなりの投資を行い、ラインを新設する。そうすると、増産数が半端でなくなります。それと需要が落ち着いてくる。また、布マスクは、うまく使い回されて、その間の時間を稼ぐ。そして不織布マスクのラインを増設、対応する。そうすると、日本のマスク狂想曲も終わるのではと思います。実際、国内最大生産量を誇るユニチャーム他、本格増産するメーカーがあると聞いています。ただ需要量が凄いので、私は、マスクを楽に手に入れられるようになるのに、早くても初夏までかかると思います。
▪️MADE IN JAPAN マスクの競争力
前述の通り、マスク増産に成功した中国は、その一部をマスクが足らない欧州へ援助物資として輸出したところ、品質不十分として送り返されたそうです。理由の一つは「N95」未達が大きな理由だそうです。
医療従事者が使用するマスク「N95」は、感染者、もしくは感染疑いのある人と対峙するわけですから、確固たる品質が求められます。このため、BFE(細菌飛沫ろ過効率)試験、VFE(ウイルス飛沫ろ過効率)試験、PFE(微粒子ろ過効率)試験で性能確認し、クリーンルーム内のウイルスなどがいない環境で作る必要があります。
極端な増産の場合のため、このようなことをすっ飛ばしたメーカーがあったのかもしれません。
こんな時、「made in Japan」は、最高の品質保証として、世界に通用します。先人が真面目に築いてきた土台が非常に生きるわけです。
普通ならブランドは、メーカーブランドです。ところが民度が高く、全国民が力を合わせ、成長してきた日本は、Japan 自体がブランドなのです。
一般的に増産の後には、必ず反動が来ます。作り過ぎてしまったとなるかもしれません。しかし、その時医療用に切り替えて、世界へ供給するなどで日本は乗り切れると思います。
その時は、某首相にはマスクを世界に売り込むことをして欲しいと思います。特にマスクは利が小さい社会貢献型の商品。この危機状況で頑張ってくれているマスク関係者へのためにも、是非。下がった漢ぶりをあげなきゃ。
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2020年4月8日