営業日35日で生産へ。
シャープのマスクのお話。
シャープの親会社、鴻海精密工場(以下ホンハイ)は台湾を代表するメーカー。
が、今回のレポートは最近コロナで、不足してしまったマスクです。
■先手を打った台湾
台湾は中国と密接な関係にあり、SARSの時、かなり手酷い目にあっている。SARSは日本での発症者はでなかったが、新型PCの発売に間に合う、間に合わないが大きな話題になった記憶がある。
そのためか、今回のコロナ禍に対し、台湾の早期対応は、徹底したものだった。
また、1月末、蔡総統(以下ライン中は蔡と省略)と陳建仁副総統(以下陳)がチャットアプリ「LINE」で交わした対話も公開されている。そこではマスクを正しく使うことが予防のキーポイントの1つであることが明確になっている。
蔡「仁さん(陳副総統のあだ名)、SARSの経験から、マスク使用について正確な知識を教えてください」
陳「発熱、咳、鼻水などの症状があるか、症状がなくても病院に出入りするとき、必ず『常時マスク着用』! 換気が悪い、混雑した密閉空間、あるいは慢性疾患の持ち主は『着用した方がいい』。健康な皆さんは常時着用しなくてもいいのです」
蔡「体温を測り、手を洗い、人が多く密閉されたところには行かない。そこが大事ですね」
陳「その通り! 民衆には『一般医療用マスク』であればよくて、(微粒子用の)N95マスクは必要ないことを知らせないといけませんね」
それと歩調を合わせるように、ホンハイは、今年2月よりマスクの生産をしている。
◾️シャープの場合
シャープの広報に取材させてもらったところ、シャープがマスク生産の検討を始めたのは、2月に入ってから。日本政府の要請が非常に大きな後押しをしていることと、液晶パネルの生産が少なくなり、クリーンルームが余っていたことも大きな要因だという。
今、日本メーカーは、不要になった設備などを別の事業に振り向ける、いわゆる異業種参入に熱心だが、華々しい成果を上げているところは少ない。それは、社内切り替えが中々できないからだ。このため、M&Aで別の会社を買い、事業を変えたあげく、今まで頑張ってきてくれた人を大漁にリストラるような形が増えてきた。
しかし、そんな中、シャープは自前の工場の中に、マスクのらいんを立ち上げたわけで、これはすごい異業種参入と思った。
ちなみに、マスク生産を決めたのは、2月28日なので、これはすごく早い決断。ビジネス的に成り立つか否かというより、見込みがあるなら生産するという強い意志があったように思う。
■呆れるほどの短期立ち上げ
それから、3月24日に生産が開始される。
工場勤務の経験がある人なら、口をあんぐり開けてしまうほどの堪能期だ。
シャープによると、ホンハイから製造機器の紹介、生産指導のサポートを受けたそうだが、ここは目標が明確化された時の日本人の強さ、集中力が成し遂げたように思う。
◾️1つのビジネスを立ち上げるのには時間がかかるはずなのに
生産ラインの設置、稼働も短期であるが、生産できるのが、またすごい。
例えばマスクの原材料である不織布は、現在世界的に供給がタイトだと言われている。マスクをつけないエリアが世界の50%だと仮定すると、即30億人分位のマスクが足らないわけである。原材料の安定供給がないと、話は成り立たないのだ。シャープからの回答は、「各方面からのご支援、ご協力の賜物」だそうだが、政府などの指導が入っているかもしれない。また、ホンハイの規模は不明だが、ここが大量に買い付けている場合、少し分けてもらうということもあり得る。
次に気にかかるのは品質。マスクの場合、素材=フィルタリング性能ということになるのだが、シャープは(一社)日本衛生材料工業連合会のアドバイスをもらいながら、各種検査をしているので、安心して欲しいとのこと。
そして、最後の難問は、販売ルート。当然、家電の販売ルートとは大きく異なるのだ。これは、このニュースを聞いた時、メディアの友だちと、「やはりヨドバシ、ビックが扱うのかな?」「ビックは薬局持っているから良いけど、ヨドバシはどうかなぁ。」「でも主要駅を網羅しているし・・・」とあれこれ空想をたくましくしたのですが、現在は、まず第一に政府納入。第二はSHARP COCORO LIFEのECサイトでの販売が決まっているだけ。それ以降は検討中。気になる売価も検討中だとのこと。先日、イズミヤでマスク50枚 3980円(税抜)、高値は原材料の高騰とされてた記事が掲載されていたが、シャープの方も高いかかくが付くかもしれない。
この3つの要素が埋まらないと、ビジネス判断可否は非常に難しい。先に、ビジネス以外の要因が働いたのではと書いたのはそのためである。
◾️コロナ禍以降のどうするのか?
で、不遜ながら、その後の計画について聞いてみた。
現在、15万枚/日を、600万枚/日まで増やすのは決定事項だが、その他は未定とのこと。ただし日本政府からの要請を受けての話なので、輸出には回さないのこと。補助金の話もあるし、そうしないと辻褄が合わなくなる。
◾️今回のシャープはかなり特殊な例だが、学ぶことも多い
こうして見るとシャープのマスクはかなり特殊な条件下でなりたっていることがわかる。何と言っても一番大きいのはビジネス継続性が不明確なことだ。
日本のため、社員一丸となり頑張ってくれたのは嬉しいのだが、短期間の判断で行ったためか、危ないところがかなり多いように見受けられる。
が、面白いと思うのは、技術ではなく、設備を活かした異業種参入。日本の場合、技術志向が強く、開発込みを考えて参入するため障壁を高くしていることが多いのだが、今回の場合、設備があれば生産はできるとしたわけで、ここは確かに台湾、中国の考え方が入っているなぁと感じた。
今、リストラばかりが目立つ日本企業だが、このように、作ること、汎用品を回すことにより、リストラを防ぐという考えがあっても良いように思う。
しかし、7週間での、ライン稼働は、とにかくすごい。お疲れ様と言いたいのですが、マスク供給は全然足りていません。日産600万枚に向けて、よろしくお願いします。
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2020年3月31日