【2019年 洗濯機特集 01】
洗濯機の「標準コース」を考える。
何故「水洗い」なのか?
洗濯は、いろいろな「要素」が組み合わさっている料理に並ぶ「深い」家事です。
「布種」「汚れ」「水」「洗剤」そして「洗濯機」の5要素を見極め、上手く組み合わせる必要があります。
この時、お役に立つのが「取説」こと取扱説明書!のはずなのですが、これが理解するためには、実は洗濯の基礎知識が必要です。
洗濯機特集の第1回目は、基本とも言うべき、「標準コース」を取り上げます。
■「洗濯とは何か?」
哲学書にありそうな、シンプルな問いかけです。皆さんお分かりの通り、こう言ったシンプルな問いほど、解答は難しくなります。
で、答えは、『洗濯は、「使った衣服を使う前の状態に戻す」衣類ケアの1つで、衣類の汚れを水に移動させる行為』です。
このためには、「布」「汚れ」「水」「洗剤」「洗濯機」を知らなければなりません。
●布
布は種類によって性質が全く異なるため、洗濯の時の扱いを変える必要があります。
このために、市販の服に必ず付けられているのが、「洗濯表示」。
この表示にある通りに洗濯すれば、布の傷みを抑えつつ、洗濯できるというものです。
https://www.seikatsukaden.com/?p=17300#more-17300
しかし、日常使用する衣類の90%以上は、「木綿」「混紡」(木綿と化繊 双方を使用)です。この3種類の衣類に対し設けられているのが、洗濯機の「標準コース」です。
●汚れ
人が衣類を使うと、汚れが付きます。汚れは、次のように分類されます。
1)水溶性の汚れ。汗などがこれに当たります。
2)油性の汚れ。皮脂、食品汚れがこれに当たります。
3)物理的汚れ。泥汚れ。汚れは付着ではなく、繊維の目にトラップされた状態です。
4)特殊な汚れ。血液などです。
泥汚れは、繊維の間に土の粒子が詰まった汚れですが、他の2つは、繊維に汚れが付着、もしくは染み込んだ状態です。泥汚れは、物理的に泥(土)の粒子を繊維から叩き出す必要がありますが、その他の汚れは、化学の力(洗剤)を借りなければ、汚れは落とせません。
標準コースは、1)〜3)の汚れを想定しています。
●水
洗濯の定義を冒頭でしましたが、別の言い方をすると「衣類に付いた汚れを水に移す行為」です。当然、洗いに使う水はキレイでなければなりません。そうでなければ、水の中の汚れを衣類に付着させることになります。(風呂の残り湯を使わない方がいい理由です。)
次に、洗剤との相性も考えなければなりません。
含有するミネラル分で、軟水、硬水に分けられるのは、ご存じの通りですが、ミネラルが多い(=硬水)の場合、界面活性剤の働きが悪くなります。
同様に、考慮しなければならないのが、水温です。
皮脂汚れは身体から出る油分が汚れとして付着します。皮脂は、体温ではかなりやわらかく、だから衣類に付着するわけです。逆な言い方をすると、体温以上のお湯で洗うと、汚れは落ちやすくなります。
日本の水は基本「軟水」です。これを受けたためか、標準コースは「水道水」を使用します。
●洗剤
汚れを落とす機能は、洗剤の成分の「界面活性剤」と「アルカリ」がもたらします。
界面活性剤は両側に頭を持つマッチ棒のような構造をしています。頭の片方は、親油性、もう一つは親水性と言うわけです。このため物理的に何もしないと、洗剤は親和性の部分を水に向け、水表面に膜を作ります。当然、この状態だと、洗剤は水の中へ入って行きませんので、汚れを落とすことはできません。
このため撹拌などの力を与えて「ミセル」という状態に移行させます。ミセルというのは、親油性の部分を中央に寄せて作る界面活性剤のボールです。親油性が全て球の中央を向いている=外側に、全て親水性が出ているというわけで、水と馴染みます。
そして油性汚れまで近づくと、反転、親油性の部分が汚れに付着します。そう3して汚れの一部を親油性で来るんでやります。すると、表面に出ているのは、やはり親水性ですから、不溶の汚れが水に溶け出すと言うわけです。(汚れが分解するわけではありません)
またアルカリであることも重要です。
このアルカリには、有機物の溶解・分解作用があります。
昔、化学実験の時、アルカリの代表物質である「水酸化ナトリウム」を手で触らないことと言われたと思います。触ってしばらくすると指の皮膚が溶け出します。皮膚は有機物ですからね。
それと共に、水産イオン(OH-)が多いと、繊維、剥離した汚れともにマイナス帯電します。つまり、剥離した汚れが繊維に吸着することもないですし、汚れ同士も反発します。
つまり界面活性剤を助ける役割をします。
扱う時に注意が必要だけど、洗浄力を強くするのがアルカリというわけです。
標準コースは洗剤指定をしません。が、その量は重要です。取説には、洗剤種類と水量による洗剤量が細かに掲載されています。一部のメーカーではダイレクトに、具体的な洗剤名(アリエール、トップ、アタック等)を出しています。
●洗濯機
洗濯に関わる全ての要素が、一堂に会し、実際に洗濯という行為が行われるところ。それが「洗濯機」です。
このため、洗濯機は、「戦略」=プログラムが内蔵されています。最近は、いろいろなセンシングにすることにより、プログラムをベストに働く様、AI(人工知能)が搭載されています。
洗濯機の武器は、大きく2つ。
1つは水流です。まず洗濯物の全表面を均等には洗剤に触れさせなければなりません。また、常に新しい洗剤ミセルを補給する必要もあります。そのために、洗濯物が絡まないように、水流を調整する必要があります。また同時に「物理的な汚れ」を「物理的に叩き出す」ためにも、水流は重要な役割を担います。
2つめは、1つめと似てはいますが、洗濯物がぶつかる洗濯槽です。素材、形状、メーカーのノウハウが満載です。当然、水流との組み合わせ、衣類をどの様に洗濯槽にぶつけるのか、これも重要なポイントです。
洗濯機の特長でよくでてくる「パルセーター」は、この水流を操るパーツです。
■「標準コース」とは?
洗濯って、こんなに複雑なの?
洗濯物を放り込んで、洗剤を指定量計り入れ、後は「標準コース」でいいんじゃないの?と思う人も多いと思います。
しかし、この標準コース、洗濯物の汚れをトコトン落とすコースではないのです。
■「標準コース」の問題点
もう皆さん、お分かりですね。
それは水道水を、そのまま使っているからです。水道水の年平均温度は、16.6℃。(H29年 東京水道局発表)実は、かなり低いのです。
ついでに言うと、一番高かったのは7月の25.4℃、低いのは1月の7.3℃。
これでは、皮脂などは、強固に衣類にしがみついたままです。当然、洗剤だって効きにくいのです。
脂汚れの付いた食器を洗うとき、皆さんお湯を使いますよね。それは、お湯自体が油を固形状態から液状に変えるエネルギーを持つからです。
このレポートを作成している時、独ミーレ社の洗濯機W1 / 乾燥機T1のお披露目会があったのですが、その席上でも、洗濯王子こと中村祐一氏が、「お湯洗いと水洗いの差」に触れていました。その時の簡単な実験を動画(約2分)でどうぞ。
要するに、日本の場合、洗濯物の汚れが最も落ちるコースを標準コースと定めているのではなく、日本全国どこでも、安く、それなりにキレイにする洗濯コースを、標準コースと言っているのです。
■どうして標準コースが「汚れを最も落とすコース」ではないのか?
いろいろと取材しましたが、これに対し適切な解答は得られませんでした。
が、理由は幾つか考えられます。
1つは、洗濯は絶対評価ではないということです。
要するに、「その汚れ許せますか?」ということです。ほとんどの人がイイというなら、それでイイと言うわけです。
2つめは、水道水で洗えるなら、便利ということです。蛇口を捻れば出てくるわけですから、確かに便利です。
3つめは、今までこれで通してきたということがあります。
洗濯機が世に出たとき、日本は貧しかった。東京でもアスファルト舗装されていない道は多くあり、子どもは泥んこが当たり前。そんな時、縦型洗濯機にタップリした水で、ガンガン洗うのは効果あったでしょうね。タップリ使うので、お湯だと高くてしようがない。ならは、日本は「いい水質」だし「水道水」で、ということになったんだと思います。
そして高度成長期の時のオイルショック。ここでも電力に響きますから、お湯洗いは厳しい。そのようなことが繰り返され、結局、手っ取り早い洗濯で、それなりにキレイ。それ以上は、クリーニングという、今の図式が成り立ったのではないかと思います。
また、技術は積み重ねが大切。一度作った標準条件を変えることはし難いということもあったのではないかと思います。
とにかく、この状態を「標準」にしているのは、日本の洗濯機の特徴でもあります。
洗濯物を突っ込んで、洗剤を入れ、スィッチオンでキレイにしてくれる洗濯機ですが、「標準」≠「最も汚れを落としてくれる」ではないことを、ご承知頂ければと思います。洗い残しがあると黄ばみの原因になりますし、部屋干しの場合、菌を殺せる温度ではありませんから、生臭さの原因になります。
確かに、かなりの人は、「キレイになっている。この位汚れが落ちれば十分。」ということになると思いますが、家電をレポートする者としては、こんなありようでいいのかと、かなり疑問を持っています。
#衣類ケア #洗濯機 #標準コース #水温 #生活家電.com
2019年7月19日