中国 ハイセンス社。中国のテレビメーカーの中でも有名な一社です。FIFAワールドカップのメインスポンサーを行うなど、欧米でも名前が通っておりますし、東芝のテレビ会社、東芝映像ソリューションを傘下に収めました。
ただし、東芝映像ソリューションは、東芝・レグザ(REGZA)ブランド映像商品、テレビ、BDレコーダー他は、自社開発・販売・修理を継続し、「今まで以上に強化していく」としてきました。
この11月、ハイセンス・ジャパンから新しいテレビの発表がありました。中国メーカーは日本市場をどのようにしようと考えているのでしょうか?
■日本テレビ市場で、現状第5位のポジション
日本の家電メーカーは、総合家電メーカーが非常に多く、そのほとんどがテレビを作っていました。しかし今、頑張っているのはシャープ、ソニー、東芝、パナソニック、三菱です。サンヨー、ビクター、日立などがテレビを作っていたのは、今は昔の話し。また、製造を続けるメーカーも、シャープ、東芝は、中国メーカーの資本が入ったりしており、昔の名前では出ているモノの、ちょっとニュアンスが違います。
さて、この次にくるのは、海外メーカーです。有機ELテレビで名を馳せた韓 LG電子を抑えて、第5位に付けているのがハイセンスです。2017年の通年シェアは6.7%(ハイセンス発表、GFKデーター)。
このシェアが示すのは、日本市場におけるハイセンスの非常に微妙なポジションです。
マーケティングには、ランチェスターの法則から導き出されるマーケットシェア理論があります。例えば、市場参入時に『橋頭堡を築く』という言い方をします。これはシェアにすると2.8%。「拠点目標値」と言われます。よく2〜3%のシェアが続くと「瀕死状態」と言われるのは、このシェアが橋頭堡レベルでしかならないためです。
次の目標は、市場にその製品が存在することを認知してもらえるシェアです。「存在目標値」と言います。数値にして6.8%。6.8%のシェアを占めて初めてユーザーに、「なんかあるぞ」と認知してもらえ始めるというわけです。今のハイセンスは、競争メーカーには知られているが、ユーザーにはほとんど知られていないメーカーという立ち位置です。
さて、これからハイセンス・ジャパンはどうするのでしょうか?
日本市場は、東芝ブランドに任せて撤退するのでしょうか?それとも策を講じるのでしょうか?
■日本市場は高画質市場なのか?
2020年に向かい、日本のテレビメーカーは大忙しです。地上波2K(ハイビジョン)放送でも、アップコンバーターで4K映像に変える形で、4Kテレビを販売してきましたが、12月1日から、BS/110度CS放送で4K放送が始まります。
日本メーカーは、ここぞとばかり鼻息も荒く、対応チューナーを搭載したテレビの新製品を並べています。
といっても、一番最初に買うのはマニア。そして一般導入の素地ができるのは早くて2020年の東京五輪でしょう。ここらへんで、値段も軟化して、一般の人も4Kチューナー付きのテレビを買うというのが一般的な流れと言われています。
しかし本当にそうでしょうか?
2011年の地デジ化の時は、アナログテレビでは、デジタル放送を受信できないということで、滅茶苦茶な台数を売りました。しかし翌年から、日本メーカーのテレビ事業は壊滅的な状態になります。
テレビの総入れ替えをしたわけですから、ユーザーからみると買う必要はありませんし、また最後、販売競争でテレビ価格を下げたため、ほとんど利益がでなくなりました。先端技術開発投資、高品質に投資してきた日本メーカーは、低価格販売に耐えられません。デジタル黒モノ家電で、日本のメーカーは、中国の価格を追求した、既存技術を使ったテレビに、価格で追いつけないのです。
しかし、海外メーカーが日本市場に対し異口同音に言うのは、「日本人は画質にこだわる。高くても買う。だから参入しにくい。」これは本当なのでしょうか?
■モノを買う世代、モノを買わない世代
デフレが続く理由には、いろいろな理由があると思いますが、その内の一つに、若い人がモノを買わないということが上げられると思います。
例えば、今の若者とスマホは切っても切れない状況です。その結果、当然ですが通信費にかなりの額が廻ります。となると、モノに廻すお金などはありません。政府が「0円スマホ」に対処しているのは、通信費だけにお金が集中すると、モノが売れなくなる。インフレ2%が達成できないからです。
しかし、今の若者は、子どもの頃からモノに囲まれた生活で、それが当たり前。となると「新品」でなくても「中古」でいいやという話しになります。彼らは自分たちに合う、安くてイイモノ(楽しいモノ)を探して買います。中古もありなら、ネットオークションでもいいでしょう。だから彼らの生活の質は悪くはないです。ただ単に画質に極端にこだわった高級テレビには、食手を伸ばさないだけなのです。
■若者、女性に受けそうなA6800シリーズ
今回、ハイセンスが市場に問う「A6800シリーズ」は、この辺りのことを十分踏まえて商品化されています。
まずサイズは50V型と42V型の2サイズ。これはワンルーム想定です。日本のテレビメーカーは、「迫力が増す」「新しい体験」と称して、70V型、65V型などをフラッグシップにしていますが、実際にこれを部屋に入れるとなると大変です。まるで、テレビ部屋。テレビに圧迫されます。ワンルームなら特にそうです。小さな2サイズに絞ったのは良い着眼です。
私も、いろいろな人からテレビの相談を受けます。男性と女性で、一番異なるのは実はサイズです。女性は、50V型以上は論外。32〜42V型と言います。男は違いますね。大きい方がイイ。
実は世界的には、大きい方が支持されています。これは家が大きいのと、ある意味、冨の象徴であるからです。当然、生産も大きなパネルがメインになります。価格もこなれます。昔のビデオテープが、60分、90分、120分とありましたが、ほとんどの生産が120分に集中したため、120分だけ異様に安かったようなものです。斯くして、女性の好むサイズは少数派に。安ければ、大は小を兼ねるしイイでしょうというのは通用しません。声が小さいヤマトナデシコには、少々酷な状況です。
このラインナップ、女性支持もありそうです。
次に、東芝映像ソリューションと共同開発した「レグザ エンジン NEO」を搭載している点が大きなポイントです。パネル生産競争に敗れた日本メーカーの拠り所は、画像を調整する「画像エンジン」でした。有機ELパネルは、すべてLG電子なのですが、それでもソニー、パナソニックなど日本メーカーの画質がよりいいのも、画を作り込むエンジンが優れているからこそ。マニアには垂涎モノの技術です。当然、マニアはいろいろ調整をかけます。画像エンジンもニーズに答え、「壁紙の色に対し、画の輝度をどのように合わせるか」など、非常に細かい画作りまでできるものさえ、あるくらいです。
■例えばマニュアルとオートマの違いと「中魂和才」
日本メーカーの画像エンジンが、クルマでいうマニュアル車だとすると、レグザ エンジン NEOはオートマ車です。「立体感あるハイコントラストな映像」、そして「自然で鮮やかな映像」を自動で制御してくれるのがポイントです。実際、前のモデルと比べると、画にシマりがありますし、キレイです。ただ、追い込んだ画質には敵いません。しかし、かなりキレイです。しかも、周りの明るさで輝度を変えるなどのきめ細やかさも持っています。この「中魂和才」テレビの画質は、かなりの人に高い満足度を与えると思います。
そしてスゴいことに(呆れたことに)、このテレビチューナーを9つも持っています。地デジ×3、BS×3、110度CS×3。要するに裏番組2つまでなら録画が可能ということです。
また、使い勝手もイイ。かなりカスタマイズ化ができます。カスタマイズは今まで余りされてこなかったのですが、スマホなど自分の使い方に合わせるのが当たり前の若者には当然の機能です。
最後は価格。50V型で市場想定価格10万円、42型9万円だそうです。「この価格は、ユーザーに合わせて決めた。」としていますが、若者でも手が出る価格です。
日本メーカーなら今ある技術で作れますが、欠けているのはユーザー目線。技術ばかり見ているからです。「高画質」押しで開発、製品化。値段が軟化して一般ユーザーへ、では、ユーザーの財布の紐を緩めることはできません。
■ハイセンスは、2020年10%シェアを達成できるのか?
現在のハイセンスジャパンの売り上げは、2018年見込みで130億円。内、テレビが約60%、その他白モノ家電(冷蔵庫、洗濯機等)が約40%だそうです。2019年で180億円にのばしたい考えです。テレビは今回のA6800以外に、ULEDのテレビを2機種、また有機ELテレビを、来年2月、3月に導入する予定。白モノ家電では、エアコンを導入する考えです。
今回のA6800は、かなりよく練られているので、若者に受け入れられると思います。2020年にシェア2桁はイケるかもしれません。
■TOSHIBAブランドとの棲み分けは十分可能
今後、東芝映像ソリューションは、開発、生産技術に力を注ぎ、TOSHIBAブランドは、売価の高い、高性能モデルに注力すると思われます。ターゲットはモノの価値が分かる高年齢層です。高年齢ユーザーの場合、東芝がどのようなブランドかは知っていますので、「サザエさん」で宣伝しなくても問題はありません。
そして中堅の実力モデルから下をハイセンスが抑える。ターゲットは若者を中心とした、モノにはそんなにこだわらないユーザーとなると思います。しかもハイセンスは、スポーツのスポンサーを世界的に行っていますので、若者との相性も良いと思います。「ハイセンスが一番格好いい、新しいブランド」と言われる可能性は十分あると思います。
日本市場に対するテレビのマーケット戦略としては、最も的を得ていると思います。Wブランドというのは、ともすれば共食い状態になることが多いのですが、今回はユーザーの顔が見えている分、その危険が極めて少ないところがポイント高いです。
しかも価格のみに反応するユーザーには、レグザ エンジン非搭載の海外モデルのチューナー変更で対応することが可能と言うのも強みです。これは日本メーカーは真似したくてもできません。
来年、テレビで一番注目を集めるのは、8Kシャープでもなく、有機ELのソニー、パナソニックでもなく、日本市場に向け本格的な活動を開始するハイセンスかも知れません。
注)当レポートは、2018年11月30日にWEDGE Infinity掲載されたレポートを加筆修正したモノです。
商品のより詳しい情報は、ハイセンスのホームページにてご確認ください。
https://www.hisense.co.jp
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