パナソニックが「元家電メーカー」と言われる日は来るのか?
いろいろなところで報道された、パナソニックの「くらしアップデート業」宣言。
しかし、これはモノに「標準品」と「特注品」があり、パナソニックは「『標準品』を『特注品』に変える、いわゆるカスタマイズすることを考えます。」と言っているともとらえることができます。かの「大パナソニック」が、それでいいのでしょうか?
前後2回に渡って考えてみたいと思います。まず前編は、パナソニック社長 津賀社長が語ったことを紐解いて見たいと思います。
■世の中をちょっと良くする パナソニックの創始者 松下幸之助が初めて世に出したのは、二股ソケットという商品。ちょっとしたアイディア商品です。この商品の発想は、幸之助の姉妹が、アイロンを使うのか、本を読むのかで言い争ったことだそうです。コンセントが普及していない大正時代。昼間、灯りを用いない時は、電球を外してそこから電気をもらう時代のことです。
二股ソケット自体は、もう世の中にはあったらしいのですが、高価な上、不便だったそうです。それを安く、使いやすくして爆発的なヒットを得たというのが正解らしいのですが、「自分の仕事で、世の中が少しよく出来れば」という思いから、パナソニックはスタートしたわけです。
■商人という職業 さて話しは21世紀に飛びます。津賀社長がパナソニックショップを廻っていたとき、店の人から言われた言葉があるそうです。「今、パナソニックは商人ではなく、サラリーマンになっていませんか?」
津賀さんは、胸中にゆらいする思いがあったそうです。
ソニーがアイディア豊富な独創的な製品で世を魅了した1970〜1980年。パナソニックは、どちらかというと商品は後追いでした。しかし商売が上手かったのはパナソニックです。その頃、幸之助は、商売として3つのことを説いたと言います。
1つめは、商売は人に喜ばれることを、工夫しながら行い、収支を足り立たせるということです。創意工夫も重要ですが、「人様のためになる」のが重要というわけです。2つめは、人の心を読むことです。その人の気持ちに添ったモノを提案する。当然、喜ばれます。
3つめは、お客様への奉仕の心、つまり感謝の気持ちだと言います。
一方「サラリーマン」はどうでしょうか?お客と自分の前に、上司と部下の関係が強くでます。いわゆる「会社都合」です。こうなると、商売の根本「人に喜んでもらう」ということがお座なりになります。
メーカーはいい製品を作ればいいとして、失敗したメーカーは世に多くあります。
実は、いい製品=いい商品ではありません。製品にいろいろな思いを込めて、初めて「商品」となります。製品は実は魂を入れる前の仏像のようなものです。想いを入れ、それに合う営業をして始めて、「商品」になるのです。
■20世紀の社会の変え方と、21世紀の社会の変え方 スティーブ・ジョブスの有名な言葉があります。当時ペプシコーラの社長を務めていたジョン・スカリー氏に言った言葉です。
”Do you want to sell sugar water for the rest of your life, or do you want to change the world?”
「あなたは残りの人生を砂糖水を売ることに費やしたいですか、それとも世界を変えたいですか?」
“Change the World”。実に魅力的な言葉です。確かに、情報、流通は大きく代わり、巨万の富が生まれました。しかし、それは社会的な歪みを大きくもしました。モノごとには必ず、いい部分と悪い部分があります。この変わればいいという20世紀的な考えに対し、地球という環境、社会という環境は悲鳴を上げています。
これに対し、2015年に国連で提唱されたものに「SDGs」という概念があります。SDGs(エス・ディー・ジーズとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略)で、国連加盟国193ヶ国が、2030年までにすべき目標を掲げたものです。
「1. 貧困をなくそう」「2. 飢餓をゼロに」から始まり、「17. パートナーシップで目標を達成しよう」までの17目標があります。
で、2015年の採択で重要なのは、国、地方自治体だけでは無理。ODA(政府開発援助)だけでも無理。民間企業が「事業として」関与しなければ、なし得ないとされたことです。
「事業として」ですから、ビジネスです。要するに、「儲けながら世の中を幸せにしよううぜ!」となったわけです。宗教が強かった時代は、ボランティア(無慮奉仕)と寄付で社会問題に立ち向かったのですが、それでなんとかなる時代ではなくなりました。商人の時代ともいえますし、商人も含めた総合力で立ち向かわないと、人類全体の問題はどうにもならないところまで来ていると言ってもいいわけです。
このため、SDGsの目標は、その下に169のターゲットがあり、より詳細になります。169のターゲットは244の指標を持ち、それより詳細に語られています。
■SDGsはすべきこと SDGsが採択される前から、心ある会社は、似た事をしていました。パナソニックも例外ではありません。「無電化地域ソリューションプロジェクト パワーサプライステーション」と呼ばれるプロジェクトなどがそうです。
人間は本能的に闇を怖れます。夜、灯りの付いていない(もしくはすごく暗い)ビルの中などには、入る気がになりません。無電化地帯の夜はそんなものです。月がある内はまだしも、新月ともなると、これは怖い。
このエリアに、パナソニックは、ソーラーランタンを配布したそうです。成果もあがり、社会貢献にもなりましたが、今は一応の成果を見たとストップしています。「事業化」したら「継続」できたかも知れません。
それがSDGsです。これは世界の全員が、すべきことをされています。
■「家電業」から、「くらしアップデート業」へ この様な社会環境下、100年間、家電で世界に幸せを届けてきた、パナソニックが次の100年の家業として選んだのは「くらしアップデート業」です。ただしこれは、家電を止めるというわけでもありませんし、具体的にこれを事業化するということが決まっているわけでもありません。
舵をこちらの方向へ向けますということで捉えるべきです。これは一商人に戻り、人様のイイ事になるなら何でもしてみようという考えだと思います。
■アップグレードからの脱皮 アップグレードという言葉があります。津賀社長の考えでは、今までの家電に付いていたのは「アップグレード」という言葉だったようです。
私も、悪い意味の言葉で、似た言葉を使います。「全部入り」です。要するに機能満載です。しかし、その機能、使わないモノがすこぶる多い。むしろ使い勝手のいい家電は、セレクトされた機能だけ持ち、その分安い家電だったりします。またギリギリの品質で世に出て来る製品もあります。某国の商品など、ままあることです。日本のメーカーはここには付いていけません。
今の、日本メーカーの製品ラインナップを見ると、「全部入り」「ギリギリ品質」が山のようにあります。パナソニックはそこから脱皮しようとも言っているわけです。
■アップデートの完成はユーザー。だから「未完成」が重要 アップデートというのは、いろいろな意味を持ちますが、その中の一つは「多様性」です。
例えば、今回の展示会場では「SPACe_C」と呼ばれる48v e-Power Trainがありました。
これはパワーユニットに、乗車カーゴを載せただけの仕様です。多様性が必要な乗車カーゴに工夫を凝らせば良いわけです。例えばエアコン。今は車両全部同一環境ですが、乗車人数が限られ、坐る位置が一定なら、最新エアコンのように、人によって温度を数度変えることなど造作もありません。病院に行くのに、その人の部分だけベッドのように寝かせることも可能です。上を全部荷物台にして、かなりの量を輸送することも可能でしょう。
パナソニックは火鍋デリバリーの例えを用い、最後味を決めるのは「ユーザー」との見解を話しました。ユーザーがひと味足すことにより、カスタマイズされ、ユーザー好みの完成品となるというわけです。そうは言っても市販の火鍋にひと味加えるのと違って、家電だと結構大変です。
家の中のIoTとしてホームXが紹介されましたが、実際は、パナソニックオリジナルでも、Google Assistでも、Amazon Alexaでも、他のメーカーの家電でも動作させることが必要です。後でいろいろな顔を作られるよう、のっぺらぼうのような土台が必要です。しかも何でも載っけられるよう、すべすでなことが必要で、質は限りなく高くです。
一社ではできない。IoTでは「共創」という言葉がよく使われますが、アップデートの土台はまさに、その様なことが必要です。
■「人の幸福から離れて生き残る会社はありません。」 この標題は、最後の方で津賀社長が語った言葉です。
悟ったようなことを言うつもりはありませんが、人の世は丸く出来ており、人を幸福にすると自分も幸福になるのは事実でしょう。
しかし実際は、多くの会社が違うことをしています。耐震ゴムの某メーカー、テストデーターを偽造した某メーカーなど、自分たち、会社都合の会社も多いです。「そうではなく、人が幸せになるよう努力をします。」という想いの土台の上に立つ、パナソニックの商品。これから100年、どんな夢を魅せてくれるのでしょうか。
その時、まだ家電を作っているのでしょうか?どんな形、どんな性能をしているのでしょうか?もしかしたら「世界の飢餓をなくした」ということで、パナソニックの社長がノーベル平和賞を受ける時代がくるかも知れません。
⇒To be continued(後半に続く)
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2018年11月18日