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2017 テレビ事情 01 有機ELテレビで見て取れる日本のモノ作りの弱さ(後編)


前編では、今年のIFA2017で、テレビの状況を有機ELテレビに焦点を当てつつ、LGエレクトロニクス、ソニー、パナソニックのブースの状況を確認してみました。
後編では、有機ELテレビの状況を考えてみます。
前編を先に読みたい人は、こちらから。
2017 テレビ事情 01 有機ELテレビで見て取れる日本のモノ作りの弱さ(前編)

■日本メーカーの有機ELテレビの位置づけ
2000年以降、液晶テレビの普及に伴い、いろいろな開発投資を行った日本メーカーのテレビ事業部は赤字を出すようになってしまいました。要因の1つに市場価格のそれまでにない下落があげられます。昭和の時代、21インチ以上は1インチ1万円と言われいて、それなりに安定していました。それが、今の時代、最先端の4K液晶テレビが、限定販売であるが5万円台で売りに出されています。

価格下落の要因は幾つかあるが、理由の1つとして「デジタル化」があげられます。例えば、4Kの液晶パネル。4Kの解像度を満たしたパネルは、日本で作ろうが、中国で作ろうが品質差はあまりありません。しかしテレビでは画質差が出ています。それは画質コントロールによるものです。

冒頭、HDRという規格名を上げさせてもらいましたが、実は、HDRを採用した場合、今のテレビでは、全ての色再現はできません。それほど色数が多いのです。このため、どの範囲を、どの様にカバーするのかなどでメーカー差が出てきます。同じ戦闘機を用意しても、パイロットの違いが戦闘能力に差になるのと同じことです。

しかし4K液晶テレビはすでに値が崩れています。ここで根を張りなおすのは、HDR導入があるとは言え大変です。このため日本メーカーは、こぞって有機ELテレビの値を、適正価格に留めようとする方向に出ています。「ブランド」+「性能」=「プレミアム」と位置づけ、高く売ろうという考えです。

スピーカーユニットを完全に切り離したLGエレクトロニクスの
壁掛け型有機ELテレビ。ドルビーATOMSにも対応している。新し〜い!
黃矢印は、スピーカーユニット。


確かに、画質はLGよりいいし、筆者の眼から見ると「欲しい。」と思います。しかし、仕事仲間は「どこが今までのテレビと違うのかわからない」と言っています。画質にこだわりの少ない(ほとんどない)彼に言わせると、「LGの方が新しい」そうです。確かに、薄いし、壁掛けだし、おまけにDA搭載ですからね。また高画質だけで、そのメーカーが天下を取ったことはありません。

 
■日本プレミアムは、高く買ってもらい続けることができるか?
基本的に、買替え需要以外で、ユーザーがお金を出してくれるパターンは4つです。

1)新しい世界を提示する「新製品」。例えば、VR機器などです。全く違う世界、体験に人を誘うものです。これは市場全体が対象になるし、買い換え時期などは考えなくてもいいです。

2)「高品質品(プレミアム品)」。今回の日本の有機ELテレビはこれに当たります。買い手は、その品質を欲していた人。マニア、ファンと呼ばれる人が対象になります。価格にもよるが、多くて全体の10%以下のシェアが一般的です。

3)次は「セレクト品」。セレクトショップが販売しているモノと考えればいいです。こちらは流行を敏感に捕らえる人が対象です。流行に乗った商品はバカ売れとなりますが、セレクトショップは、流行の先端にいてこそのセレクトです。当然売り切り御免の世界。ライフスタイルを大切にする人もここに含まれます。こちらも、多くて全体の10%以下のシェアが一般的です。

4)最後は「高級品」。「ブランド」が最も威力を発揮する分野ですが、そうなるまでには、伝説的な、後日、その分野の定番と呼ばれる製品を出す必要があります。また品質がいいことも必要ですが、「欠点がない」商品であることが重要です。技術的にスゴくても、その技術を常識的なやり方で使えない限り「高級品」と見てもらえない場合が多いです。

例えば電子レンジ。マイクロ波を使うためアルミホイルが使えないなどの欠点(原理から見ると必然ですが)があります。しかもこれは、知らされない限り分かりません。このため、温めにあれだけ便利な電子レンジですが、単体で高く売られることはありません(高いのは、オーブンレンジ)。知らなくても使える=欠点がないということは、新しいモノに目移りせずに済むと言うことで、長期に使えることでもあります。高級品がシンプルで使いやすいのは、この様な理由もあります。つまり高級品は少々高くても、お得ということにもなります。お金持ちは全体の5%以下と少ないが、最も固定化率が高い層だとも言えます。

 
今、日本メーカーの有機ELテレビは(2)。ソニー、パナソニック共に販売も好調だと聞いてます。が、この9月シャープは、8Kテレビを発表し、マニアの興味はそちらに移行しつつあるのも事実。そうなると売れなくなります。値を下げる。と言う負のサイクルが出てくる可能性は否めません。

ソニーの有機ELテレビ、KJ-55A1。
欲しいかと問われれば、答えはもちろん「yes」だ。
しかし、液晶テレビとの価格差を跳ね返す魅力は、全員の心をユサぶるわけではない。


デジタル化された黒モノ家電は(1)(2)双方が組み合わされると、値崩れせず、支持されます。「新しい体験」と「技術に支えられた高品質」が需要を支えるのです。しかし現実は、かなり意識しないとそのレベルに達することはできません。

 
■新しい世界へ進むためには「眼を持った人」が必要!
「テレビの分野で新しいことはできないのか?」というと、私はそうは思いません。が、人間、今の延長線上で考えるのが常で、なかなか新しいことに気づきにくいのは事実です。また、無意識に面倒なこと(新しいこと)は避けようとします。

新しい世界を創出した製品にソニーの「ウォークマン」が上げられます。再生のみの携帯型デッキに、ヘッドフォンを組み合わせた、今では標準のオーディオ機器です。しかし、当時有識者はこれを面白いとは思っていなかったようです。「録音ができない半端モノ」のような言い方をしていたはずです(私は、そう記憶している)。 しかし、世間的に見るとラジカセを路上に置き、みんなで踊るような竹の子族が出ているような時代。「どこでも音楽!」という機能は、若者を中心にたちまち世界を席巻、造語である「WALKMAN」が、英国の権威ある辞書 ウェブスターに採用された程だ。

しかし考えてみてください。当時ラジカセを路上で使い、踊る文化があることは全メーカーが知っていたのに、音楽を外に持ち出す「ウォークマン」を発想できたのが、ソニーだけだったのです。それはソニーに「眼を持った人」がいたからです。また、そのアイディアを検討する余裕が社内にあったからだ。

日本の商品は確かに高品質だし、高性能です。ミクロ的な見方をすると新しいことに挑戦もしています。しかしLGのような「有機EL」をトコトン活かしたものではなく、「平面テレビ」の誰でも予想される進化をしているだけであるとも言えます。もしLGが壁掛け以上のアイディアを出してきたら、品質リファインだけでプレミアム維持は厳しいでしょう。

メーカー創業者は、自分の欲しいモノ、必要に思えるモノが世の中にないから、作ろうと思ったわけで「眼を持った人」だったわけです。しかし、今の世、特に大メーカーは、自分の組織を維持すること、計画通りのモノを作り利益を上げることに集中しようとしています。しかも計画通りのモノは、自らが考えたモノではなく、借りてきたアイディアであることも多いです。経産省が出している新産業構造ビジョン、各種技術のロードマップです。

今回、今の時点で「品質に優れ、いいな」と思える日本メーカーですが、「新しいな、いいな」と思えるLGのポテンシャルは高いです。品質向上に依然大きな投資をしている日本ですが、技術はこなれてくると、品質差は薄まる性質を持ちます。そうなった時、ユーザーはプレミアムとして日本メーカーにお金を払ってくれるのでしょうか?

(WEDGE Infinityに掲載された筆者の記事を改定転載)

 
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2017年12月8日

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