『八代目儀兵衛』が提案するお米との新しい付き合い方 〜オノマトペでお米を評価〜
『八代目 儀兵衛』(以下 儀兵衛)と言われても知らない人が多いかも知れません。
ホームページを見ると、「事業紹介」の欄には次の様にあります。
「お米の素晴らしさや、それを主とする日本人の食文化、食事スタイルの素晴らしさをもう一度多くの人に伝えたい。本当においしく甘いお米を一人でも多くの人に伝えるために八代目儀兵衛では、お米の「つくる」「食べる」「買う」を見直し、今までのお米の価値観を変える取り組みを行なっています。」
元々は、江戸 寛永年間(1787年)創業の京都のお米屋です。京都と言うと、和食の本場。今でも和食の中心地ですし、和の板前は、関西で修行しなければ認められないとか。その京都の米屋。こだわりも一際です。
それから数えて、八代目の当主が、2006年に株式会社を立ち上げた時に掲げた目標、それが冒頭の「事業紹介」です。
■東西を問わず、ユーザーアピールに勤しむ老舗
いい商品を、その価値が分かる人に、適切な値段で売って会社を成り立たせるのは、東京 日本橋の老舗会社もしています。
しかし、その状態をキープするには、自分が扱っている商品の良さを、今風にしてアピールしなければなりません。
例えば、東京 日本橋の「にんべん」。言わずと知れた、日本でも一二を争う かつお節の老舗です。
そのにんべんが、アピールのため、プロデュースしたのが「日本橋だし場」。
場は英語で書くと「Bar」。そういろいろな酒が置いてあるあの「バー」です。コンセプトは「一汁一飯」。かつお節だし、月替りの だしスープ、かつぶしめし、数量限定のお弁当、惣菜と幅広くメニューを用意し、日本型食生活(鰹節から始める健康生活)を提案しています。
口さがない言い方をするなら、有料のダシの試食コーナーです。月替わりでいろいろなダシを出してくるのですが、これがなかなか美味しい。「買ってみたいな」と思うときもあります。
今、八代目 儀兵衛がしようとしていることも同じです。自分たちが商いしている「お米」を、より分かってもらおうということです。京都と東京に、米料亭も出しています。
そんな儀兵衛が、目利きしたお米をツールに、楽しみながら子どもの”五感”と“感性”を育てる体験型の能力開発プログラム「my Taste」を始めると言うので、体験してみました。
■楽しむためのお米評価
お米の評価と聞くと難しそうに思えますが、難しくもあり、簡単でもあり、ということです。
私は、米・食味鑑定士のライセンスをもっております。我々のお米の鑑定項目は、「色・ツヤ」「香り」「粘り」「食感」「食味」の5項目。
「色・ツヤ」とは、粒は揃っているか、色はどうか、光沢はどうかを確認します。
「香り」とは、口元に近づけた時のふくよかな香り、噛み砕いた時のほのかな甘い香り、そしてノドを通る時の鼻に戻される香りですね。ノドを通る時の香りは結構重要です。
「粘り」とは、噛んだ時の粘り具合です
「食感」とは、しっかりしているのか、柔らかいのか、それとも極端にモチモチした食感なのか等です。
「食味」とは、美味しいか、美味しくないか。
これらを、基準米に対して、どのレベルにあるのかで評価していきます。
難しいのは、基準米の味を自分の中にたたき込むこと。基準が曖昧だと評価が曖昧になります。
私が所属している団体の場合、「魚沼産 コシヒカリ」が基本になり、それと食べ比べます。
簡単というのは、基準米のとの差が分かればいいだけということです。米を食べ慣れている日本人だと、まぁ楽勝です。
しかし、「my Taste」はちょっと違います。
評価シートにある評価項目は「色・形」「音」「香り」「食感」「味」です。「音」は独特ですが、「粘り」は「食感」の中に入っています。
が、「my Taste」は、その要素に対し、数値付け評価をしないのです。
例えば「食感」の「噛み心地」だと、「サクサク」「ガシガシ」「プニプニ」「プリプリ」「ふわふわ」「ネチャネチャ」とあり、この中から選ぶような形です。
同じものは、子どもの評価シートの「さわる」「かんだとき」にあたります。
評価は、「さくさく」「がしがし」「ぷにぷに」「ぷりぷり」「ふわふわ」「ぱさぱさ」「ぱらぱら」「さらさら」「あっさり」「もちもち」「ねばねば」の中から選ぶという具合です。
これだと子どもも自分で選べますね。
数字評価は「記録」ですが、これはどちらかというと「記憶」です。
しかも、書いてある言葉は、フランス語で「オノマトペ」と言われるモノで、日本語の擬音語、擬態語の総称である「擬声語」のことです。儀兵衛は、フランスの食育教育から発想したためでしょうか、プレゼンの時、「オノマトペ」と呼称していましたので、このレポートも「オノマトペ」で通します。
オノマトペは、子どもにもラクラク使えます。
■オノマトペを使うと何が変わるのか
自分が体験し、五感で感じ、自分も言葉で表現するのは教育では非常に重要です。
この表現に、オノマトペを使うのに、子どもでも分かり易いこと以外に、何かいいことはあるのでしょうか?
現行教育では、オノマトペは重要視されません。誰が読んでも分かるように、5W1Hを用いて理論的に書くことを強要されます。
行動記録だとか、モノごとの筋道を記録するには、その通りです。
しかし、心の動き、インスピレーションを出すには全く向きません。
ところがオノマトペだとかなりしっくりきます。
心の動きを表現した文章に、詩があります。詩はオノマトペを巧みに使います。
マンガもそうですね。効果音に独特のオノマトペを使うのはよくあることです。
有名なところでは、荒木飛呂彦氏の「ジョジョの奇妙な冒険」の敵が現れるシーンなどで使われる「ドドドドド」でしょうか。
あると迫力がでます。
子どもは話すときに、オノマトペを多用します。
これは、頭に浮かんだもの、心の動き、そのままに話しているからではと思います。
子どもは止まっていません。
楽しいと、すぐ動きます。スヌーピーの様に、踊ります。
心の動きが体の動きとして出てくるわけです。
その時の子どもは、大抵、声を出しています。その声、多くの場合はオノマトペです。
哲学者にニーチェという人がいます。名前は有名ですね。
彼は人間を追求し、より高次の生き方を模索した哲学者です。彼の著書で最も有名なのは「ツァラトゥストラはかく語りき」でしょう。広く読まれ、クラシック音楽(交響詩)になった位です。その冒頭は、映画「2001年宇宙の旅」で使われ、曲も広く知られています。
「ツァラトゥストラはかく語りき」の一節に、「私が神を信ずるなら、踊ることを知っている神だけを信ずるであろう」と言う言葉があります。
ニーチェは、人間讃歌。つまり「神」などはどうでもいい人なのですが、「踊る神」とは何でしょうか? ニーチェは踊ると表現するのは、人間が捨てようとも捨てられない「肉体の感覚」を意味します。そう子どものように、肉体と心を一緒になって楽しんでいる状態を「踊る」と表現しているのです。
人間として前向きに(高次に)生きるには、こうあるべきだと考えているわけです。
ニーチェの哲学のユニークさは、精神だけを考えないことにあります。人間には肉体感覚が必要なことを指摘します。
人間、年を取ると、だんだん肉体が衰えてくる。生きるのが億劫になってきたり、心がうつうつしてきます。
言葉も理論的になります。年寄りは「心が痛む」という表現は取っても、「ハートが、ズバンと斬られて、血がジクジク出ているような気分」とは言いません。
そんな時に、子どもに還った気分で、オノマトペをガンガン使うとどうでしょうか? 言葉に引っ張られ、気持ちが高揚してくるのではないでしょうか?
子どもは自分に合った表現。大人は、肉体に働きかけ、気分を高揚させる表現と言えるのではないでしょうか?
■ワインの評価、日本酒の評価
ワインはいろいろな表現で評価されます。
香りは、花、フルーツはもちろん、「濡れた番ボール」、「濡れた小犬」、「鉛筆の芯」、「腐葉土」など。
一度、「14歳の女の子が、ローファーで踏みつけた落ち葉の香り」というのも聞いたことがあります。この時はとても驚きました。きっと警察犬並みの鼻をお持ちの人なのでしょう。ワインの表現は決まっているようで、決まっていません。私の感じでは、いろいろなことを勝手に、やや大げさに言います。ちょっと変な表現でも、彼等は割とプラスに受け止めます。これが重なりますと、厚みがでてきます。否定しないので、いろいろな要素がごっちゃりあります。文化を支えるモノは多様性。ワインの文化は未だに育っています。
それに対し、日本酒の味は、単に「辛い、甘い、」「淡麗、豊潤」の組み合わせで表わされることが多いです。それ以上の評価はしません。今の日本、失言は「恥」というより、いじめの対象とされることが多いですからね。
私は、日本酒の美味しさがワインに劣るとは思っていませんが、はたして、美味しさを楽しむとなると、フランスに差を付けられていると思います。
こんな時、オノマトペは、どうでしょうか? 一種の珍風景になるかも知れませんが、楽しめそうではないでしょうか?
■日本語は、「世界でもっともオノマトペが多い」
日本語で、食べ物の味、音の違いなどを文章に書くと、割と簡単に詰まってしまいます。とにかく他の言語と比較して動詞、形容詞が少ない。違うように感じていても、似た表現になってしまいます。
では日本語は、貧相かというと違います。オノマトペがそれをきっちりサポートしています。
「雨がしとしと降る」、「雨がザーザー降る」、「雨がパラパラ降っている」。また、私はあるところの方から、「雨がバサバサ降る」というのを聞いたこともあります。これらは全て、雨の状態が異なります。オノマトペにより、表現の多様性を確保しているわけです。
ちなみに、このオノマトペ、英語:200〜300語に対し、日本語では3000語以上あると言われています。
当然、食べ物に使えるオノマトペも100語以上と世界で一番です。
ちなみに、マンガ「美味しんぼ」で流行った「まったり」という表現もオノマトペです。
「my Taste」の考え方は、子どもの食育ということだけではなく、お米だけでなくより、日本人が生活を楽しむに必要なことではないでしょうか?
ちなみに、日本独特の文化に話術があります。
講談、落語です。これなどは、オノマトペが大活躍します。いろいろな描写を、言葉短く、適確に導きます。
またオノマトペは、心に働きやすい。となると、興奮しやすい、笑いやすいわけです。
独自の話術が、人を楽しませる芸として残ったのも、オノマトペがあったからではないでしょうか。
八代目 儀兵衛のホームページは以下のURLから。
http://www.okomeya-ryotei.net
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2017年10月23日