IFA2017 独ミーレ社、ダイアログオーブンに使用した技術
氷箱に入れられた魚を調理し、アルミが巻いてある部分とその他の部分で調理の状態を変えることができる。しかも料理の理想である均一性を確保。日本人が多用する電子レンジを見事に出し抜くようなこの新設計のダイアログオーブン。一体、どんな技術が使われているのでしょうか?
■電子レンジの原理
電子レンジは、マイクロ波で水分子を振動させ、熱を出します。それが原理です。
便利な機器ですが、この原理のために問題があるときもあります。
例えば、塊肉の解凍。厚みが一定でない場合は、「解凍ムラ」ができることが多いです。「氷る」とは分子運動が妨げられた状態とです。マイクロ波をかけても、内側の水分子は振動しにくい、つまり外側から解凍されていくことがお分かり頂けると思います。このため起こるのが「解凍ムラ」です。
均一な状態であることを基本とする料理にとってあまり望ましくない状態と言えます。
また電子レンジだと、みずみずしいものが、パサパサしてしまうときがあります。
端的な例が「豚まん」です。豚まんは蒸し調理で、作りたての皮などはみずみずしい。ところが豚まんを温めると皮がパサつき美味しくなくなります。
これは水の一部が、蒸発するために起こります。
コンビニなどは、これを熟知しており、あれだけ電子レンジを多用するのに、冷えた豚まんをチンして出すことなどはしません。必ず、ディスプレイを兼ねた蒸し器で対応します。
また、アルミホイルは使えません。なんせ火花が散ります。
「電子」とあり、如何にも未来を思わせる調理器具ですが、完璧ではない。電子レンジは、そんな欠点を持った調理器具なのです。
■電子レンジを重要視しない文化
欧米の調理器具を見ていると、オーブン、オーブン、オーブンです。
日本のオーブンレンジも、ほとんどの調理はオーブンでしています。
レンジは解凍と下ごしらえ。逆な言い方をすると、オーブンさえあれば、何とかなると考えていても不思議ではありません。
ある時、シンガポールのシェフに、電子レンジは使わないのかと聞いたことがあります。
答えは「必要ない。」
少なくとも、なければ料理が食べられないということではなさそうです。
■均一料理の妙
料理は、「火との戦い」と断言する人がいます。
そうでしょう。
その時のポイントは、火の通りが一定ということです。
実は、これがなかなか難しい。昔「お伊勢さん」という料理があったそうです。無礼講、伊勢参りですから、どっと大量のお客が来ます。魚を一匹づつ、焼くことができない位、人数が多かったそうです。
その時、魚を茹でるんだそうです。そして、皮に焼け火箸を当て、焦げ目を付ける。
タンパク質に、熱を掛けるのは、火も、お湯も変わりません。まるまる一匹、皮を付けたままなら、旨味も逃げにくい。特上とは言えないまでも、安価な食材としては非常に重宝したのではないでしょうか?
このポイントは、均一に十分熱が通っていると、料理として通用すると言うことです。
■ダイアログオーブンの妙は「均一性」
今回のミーレのダイアログオーブンは、この「お伊勢さん」に近いモノがあります。
まず、食材へのエネルギーは「電磁波」で与えます。周波数は、欧州で使われるスマートホンと同じだそうです。その強烈なやつ。
説明員の言葉を借りると、「電磁波が作る均一な「場」。そのエネルギーで調理するのだそうです。」
次のポイントは、料理の内側、外側も均一にエネルギーがかかることです。
これは電子レンジのような場の温度によって、水分子の動きが支配される等と言うことはないということです。
そして、調理管理は、どれ位のエネルギーを対象に掛けたのかで判断します。つまり100というエネルギーを掛けて20のエネルギーが帰ってきたら、80のエネルギーが使われたということです。それに時間を掛け、どこまで料理が出来たのかを判断します。
エネルギーを受けるのは食材ですので、例えば載せている皿を温めるのにエネルギーは使われないと言うことです。
極端な省エネです。今までより最高:70%の省エネが可能だとか。
子豚の丸焼きなどは、オーブンの場合、7〜8時間焼き続けることが必要なのですが、ダイアログオーブンでは、2時間半。時短なのですが、レベルが違いすぎます。
しかもこの電磁波。可変型です。
同じ肉と言っても、脂身の量で、電磁波の通り方が変わります。また調理されていくと、タンパク質も変わりますので、当然電磁波の通り方も変わります。
常に最もよく電磁波が通るようにしているそうです。
■その味は・・・
味は美味しいでいいのですが、参ったのは食感です。
金太郎飴の如くの均一性。正直たじろぎました。
計算し尽くされたという感じの料理と言ってイイかも知れません。
今までにないほど均一な食感でした。
■市場導入
ドイツへの導入は、来年4月から。日本は未定です。
しかしミーレはいろいろなシェフに使ってもらい、これ一番合う料理法を作りたいという考え方を持っている様です。
エネルギー効率がスゴくいいだけでも、世の中を変えるポテンシャルを持っています。が、それ以上に料理は、人の心を満たすモノですから。
■日本メーカーの呪縛
マイクロ波ではなく、電磁波。
それを調理に使う。根本的に、変わりがない技術と言えば、その通りですが、何故、日本は、この様な開発ができないのでしょうか?
多分、開発体制にあると思います。
ミーレは高級白物家電。高級であるために、20年使用できることを前提とします。この縛り生半可ではないです。しかしミーレは、「そのために我々は上場していない。4半期決算などには縛られない。」と言い切る会社でもあります。
つまり時間を、モノごとを根本的に見直す時間を取ることができる会社でもあります。
さらに「高級品」にあってはならないのは「欠点」。欠点を持つ技術は、完全にしてから使うべきなのです。
ところが日本は、1年もすると製品は古びたとされるため、毎年の様にモデルチェンジします。
白物は、理論ではなく知恵の塊の様なところがあり、デジタル機器の様に、理論的に、短期に追うのがなかなか難しい分野。
あるモノは、「去年とどこが違うのだっけ・・・・。」とか、「この機能お金掛かってそうだけど、本当に必要なんだっけ・・・」などということもしばしば。
こんな状態ですから、技術の根本欠点対応は厳しい。
このため、電子レンジあぐらをかくのですが、その欠点「解凍ムラ」の問題に満額回答を出したメーカーはありません。電子レンジで一番よく使われる機能にも関わらずです。
私は、高級家電という独自の地位を作るには、これがだめならあちらがあるさではなく、なんとかして、欠点のない技術にすることが大事であることを改めて痛感しました。
こんなミーレをスゴいと思うと共に、「技術」を標榜する日本メーカーが、実は「製品」を深く考えていない可能性あるのではないかと思いました。
日本のメーカーは「新しい技術」と「製品」の関係をもう一度考える必要があるのではないでしょうか?
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2017年9月5日