有機EL技術の位置づけ 〜軽さが大きなポイント〜
次世代テレビといわれる「有機ELテレビ」が、騒がれ始めました。特にJOLEDが印刷方式でパネルを作る技術を確立したと言う話が出回って、火が付いた感じです。
有機ELは自家発光型のパネル。液晶テレビに比べ、黒、白の階調がしっかり出るという特長を持つという特長を持ちますが、それだけではほとんどの人は「次世代」と呼ばれることに納得できないでしょう。
しかし、有機ELは正しく、次世代テレビを担うモノです。それはテレビと言う製品が持つもう一つの基本性能がそれを支持しているからです。
■4回ほどバカ売れしたテレビ
最近テレビが爆発的に売れたのは、2011年。地デジに変わった時です。しかしこれはデジタル放送受信というお題目で総務省がテレビ用の電波の帯域を変え、それまで使っていた電波帯域を携帯電話に明け渡すために、国民に強いたものです。これはテレビの商品性能で売れたわけではありません。
が、テレビはそれまでに4回ほどスゴく売れた時がありました。その他の時は、買い替えです。
その4回は次の通りです。
1)できた時
2)カラー化
3)大画面化(29インチ以上)
4)平面化
この内、3)まではテレビはエンターテイメントを追いかけて来ました。
家で「動画が見られる」。「カラー」で見られる。それに「迫力」が付く。29インチが出た当時は、ビデオもかなり普及を始めており、AV趣味(エーブイ:オーディオ・ビジュアル)が出始めており、テレビが「映像美」を発揮し始めた時期でもあります。
ところが、これに翳りが見えます。
理由は簡単。ブラウン管テレビの構造にあります。ブラウン管は巨大な真空管。耐圧ガラスで前方を覆い、そのガラスに映像を映す構造を取ります。が、この「耐圧ガラス」が重いのです。30インチで50kg。40インチを越すと200kgになったそうで、「商品化は無理」と判断したそうです。作ってみた場合でも、奥行きもあります。重さ、サイズ共に、リビング、茶の間でも持てあますテレビになります。
そんな時でも、テレビを大画面化しようとします。
大画面化の可能性を持っていたのが、液晶テレビ。そしてプラズマテレビ。この2つのテレビの特長は、薄いと言うことです。
平面型の特長は薄さです。壁に寄せると、場所をそんなに取らない。平面テレビが流行ったのは、角に置くという設置を壁に並行に設置することにより、ある程度大きなサイズでもリビングに入れることができたからです。
■巨大化と高精細化。今のテレビ
次はより、テレビを巨大化するために用いられたのが「高精細」。
2Kのハイビジョンを皮切りに、4K、8Kと進んでいる技術です。
一般的に言われるのは、「画がキレイになるよ」ということです。
別の言い方をすると、同じ距離から見る場合、4Kは2Kの2倍の大きさにしても今までと同じように見ることができるということです。これは画を形成しているピクセルサイズが同じだからです。つまり4Kのテレビを買った場合、2Kの半分の距離でもキレイに見ることができるということです。距離を変えない場合は、テレビサイズを大きくすることができると言うわけです。
高精細化は、画質を上げる技術と言われますが、別の言い方をすると狭い部屋で、大画面を入れることができる技術です。
このため、高精細化すればするほど、メーカーはテレビの本質としてきた「エンターティメント」性を上げられ「大画面」を進めることになります。
このため、テレビを買いに行くと、必ず今までより大きなテレビを勧められると言う構図ができあがりました。
こうなると平面テレビ、壁と平行のため少ない面積で設置できるとしても、いやになってきます。
これが今現在の状況です。
■有機ELのメリット。未来のテレビのあり方
有機ELのメリットは、パネルに必ずしもガラスを使わなくてもいいことが上げられます。
これはブラウン管、液晶パネルと違います。液晶パネルはそれなりに薄いガラスを使っていますが、有機ELほどの自在さは持ちません。
本当なら壁に並行に設置ではなく、壁に掛けて設置したかった液晶テレビですが、最後まで壁掛けを標準化することはできませんでした。
有機ELはそこが違います。透明度の高い樹脂で十分です。薄く、軽い。
要するに大画面化がし易い「壁掛け」を標準化することができるわけです。
ちなみに有機ELのパネルを製造しているLG電子は、壁掛け以外設置できない有機ELテレビを発売しています。
ついにテレビは、部屋で最も大きな平面、「壁」を手に入れたのです。
■テレビは人の生活に寄り添っているか?
この様に、ホーム・エンターティメントとして進化してきたテレビですが、今からは、これが正しい進化かどうかが問われています。「テレビ要りません、スマホで十分」という人も多いですし、PCのモニターも30型近くになってきています。
要するに、PC、スマトフォンを持っていると「テレビは必要ない」とも言える状況になっているわけです。
これに対し、メーカーは大画面が必要だと主張します。エンターテイメントとしてはそうでしょう。しかし、そんなにテレビのエンターテイメントは必要でしょうか?
大画面で観た方が面白い映画、スポーツ、音楽ライブは、少なくなっています。余り観たい番組はありません。それでなくても仕事でPCを多用しますから眼も疲れています。
また今後は単身世帯が増えてきます。マニアなら兎も角、そんなに使わないテレビにお金は出しません。NHKの受信料に反対している人も多くいる位です。
今の大画面を追うテレビの発達のさせ方がイイのかは疑問が残っていると思います。
■新技術の採算性
織田が捏ね、羽柴が突きし天下餅 座りしままに喰うは徳川。
戦国時代の天下の行方を言葉にしたものですが、織田、羽柴、徳川も天下が見えたのは、最後の最後でしょう。ここを乗り切れれば可能性があるとして、全力でやって来たから、こうなったはずです。
有機ELは、何社も何社もアタックしてきました。
ソニーが、パナソニックが、サムソンが、LG電子が・・・。その中で、日本メーカーは後手に廻ります。ソニーもパナソニックも実用性を持つ大画面の有機ELを作ることはできませんでした。結局、2社とも開発を諦めます。
この技術陣をまとめ、研究を継続させたのがJOLED。
新しい技術を考える時は、技術的な難易度もありますが、次のことを考えなければなりません。開発経費、開発期間、そして開発人員です。単純に言うと技術の採算性です。しかし問題は、技術難易度が高い場合、予想が付けにくいと言うことです。
しかも現在のメーカーは、創始者のように信念を持ち、それに取り組むという形を取りません。経営者がプロとして乗り込んでくることも多くあります。つまり、昔のように何が何でも技術をモノにするということではありません。投資家を満足させるために、右肩上がり維持。そのために、金食い虫である開発を切ることがあります。
そして技術をモノしたらイイかと問われると違います。技術の普及速度が重要です。新しい技術での新製品。確かにスゴい。今までにない境地まで行っています。しかし液晶テレビが使えないテレビになったのかと言うとそうではありません。十分使えます。つまり、コンセプトが継続(大画面で迫力を追うというコンセプトが変わっていない)だと、新技術で作られた製品は直ぐには売れないと言うことです。
「技術立国」というのはある意味カッコイイのですが、それで儲かるのかどうかは、全く別物。今までの「作りたい製品」があり、それに対する技術を作る。その技術を元に、作りたい製品を作るという構図からメーカーは外れて来ています。
有機ELは、テレビだけでなく、サイネージでも使われます。電子看板ですが、有機ELはキレイ、軽い以外に曲げることも出来るので、電子ポスターと言う方が良さそうです。電子看板は今までもありましたが、電子ポスターは今までありませんでした。ここはかなり売れる可能性があります。
また照明にも使えます。今までのLEDが点光源なのに対し、面光源。こちらも新しい世界です。しかしLEDは長寿命。付け替えはなかなか機会がないかも知れません。
この様に、情報が少ないため、正確に採算性が見積もれないとなります。
元々、技術開発企画は、たらればの塊の様なものです。しかしモノにして世に問いたい。創始者の場合は、その気持ちが分かるのですが、今の世の中、分からない人がメーカー経営をしている場合が多い。その上、技術ハードルが高いと来ています。
実際、2015年のIFAで有機ELの勝利宣言をしたLG電子も、有機ELでは赤字だという噂も聞きます。
次世代技術を儲けられる技術とするのが、難しい世になってきましたと熟々思います。
文中の有機ELテレビの詳しい情報は、LG電子のホームページにてご確認ください。
http://www.lg.com/jp
2017年6月26日
タグ: 有機ELテレビ