「新」洗濯表示の意味とポジション
12月1日より、実施され始めた洗濯物の新取扱い表示日本工業規格 JIS L0001(繊維製品の取り扱いに関する表示記号及びその表示方法)に準拠。
50年慣れ親しんだ表示が変わるので、どちらかというと非難の声が多い。何故という声も多いと思います。
しかし、これはあるべき姿に変わっているのです。それをレポートします。
■何故変えるのか?
洗濯の親分とも言うべき、クリーニング。
これはどこが管轄しているか、ご存じでしょうか?
ビジネスマンだと「経産省」と答えるのが普通ですが、正解は「厚労省」です。
これは戦後まもなく、不衛生だった時代に決められたことです。
当時は、美人の女の子でも髪の毛をくしけずると、シラミがいたと言われる時代。電車の中でDDTジクロロジフェニルトリクロロエタン。害虫駆除の農薬として用いられたが、発癌性物質としての疑い、また環境汚染物質のため、現在日本では製造、輸入共に禁止されている。をいきなり散布されるなどがあったと言われています。
そんな時代ですので、洗濯は衣類の美しさを保つと言うより、清潔さを保つ行為とされたわけです。
しかし今は、そんな時代ではありません。清潔なのは当たり前です。
その分、別の面が出てきました。ウールとファー(毛皮)がまぜこぜで貼り合わされ、一つの衣装となる時代。つまりファッション性の高いウェアが当たり前に買える時代になったわけです。
これにより、問題が起こっているのが、実はクリーニング業界。
日本の場合、クリーニングはドライクリーニングを意味します。有機溶剤に汚れを溶かし出させてキレイにする方法です。水で落ちない汚れを落とすことができます。原理を発見したのは、パリの仕立屋さんだそうで、偶然にランプオイルをこぼしたら、この部分だけ汚れが消えていたことに気付いたことから始まったとか。
(水(湯)で)落ちない汚れが落ちると言うことで、世界の主流になったドライクリーニングですが、今、世界中で見直しが掛けられています。
理由は2つです。
一つは環境問題。化学物質は、人間の生活の根底を支えるモノですが、量、扱いによっては危険なモノもあります。これは、今後、必ず上げられる問題です。
もう一つは、対応できないウェアがあることです。例えば、ギャザーなどに天然ゴムが入っている場合、有機溶剤だとだらりと伸びてしまいます。顔料プリントの場合、顔料を固定している樹脂が溶け出す。つまりプリントがグジャグジャになります。
このため、現在、世界的には、「ウェットクリーニング」を加え、クリーニングを正確に行うことが求められています。つまり、汚れを落とせばイイと言うモノではなく、「ファッション」を大切にするというわけです。
このウェット・クリーニング、今まで日本にはありませんでした。やっている所があるとしても、専用のマシンを使うのではなく、家庭用の洗濯機を使って行うのが多い。
これは親方が、「厚労省」。つまり「清潔」を旨とする所だからです。
汚れを落とすことに集約しているので、衣類の素材が変わって来ていることなどには、頓着しません。
それは洗濯マークもそう。ドライクリーニングの表示しかないので、日本人は、難しいと思われる汚れは、クリーニングに出します。ギャザーの部分を見逃したら、アウト。
汚れがどうのこうのという前に、服自体がダメになります。少なくともギャザーの部分は伸びたままです。
プロは綿密にチェックをしますが、チェック漏れは発生します。
当然、上のようなこともあります。ちなみに、上の話はアルマーニの服で実際にあった話です。
クールジャパン、東京ガールズコレクションと騒いでも、服一つまともに扱えないのかと言われたら、うなだれるしかない。
ファッションで名乗りを上げるなら、「すべきこと」の一つなのです。
■基本記号は5つ
表示が人気ないのは、従来の22種類に対し41種類ということが原因の一つに挙げられています。
しかし、主に使われる布の種類でも16種類あります。
「綿」「ナイロン」「「ウール(羊毛)」を筆頭に「アルパカ」「らくだ」「カシミヤ」「モヘア」「アンゴラ」「絹」「亜麻」「アセテート」「レーヨン」「キュプラ」「アクリル」「ポリエステル」「ポリウレタン」。これ以外の「指定外繊維」があります。
そう、これらは繊維の指定用語として、表示が義務付けられています。
当然、洗い方は種類によって違って来ます。
それを括って出来たのが、41種類と言うわけです。
そうは言っても41種類はと思われるかも知れませんが、覚えて頂きたいのは、5つです。
「タライ(洗い桶)」「△」「▢」「アイロン」「○」。
これらは、それぞれ「家庭洗濯」「漂白」「乾燥」「アイロン」「商業クリーニング」を示します。
そしてもう一つが付加記号、「—」「=」「・」「・・」「・・・」「・・・・」「×」。
「-」は弱い処理、「=」は非常に弱い処理。「・」は温度などのレベル。ちなみに数が増えると、レベルは下がります(弱くなる)、「×」はしてはいけないを示します。
■家庭洗濯(タライ)
人の歴史を考えた時、20世紀半ばまで、洗い桶は使われて来た訳で、「タライ」=「家庭洗濯」は順当でしょう。
そしてこの中に書かれている数字は、それ以上高い温度のお湯で洗ってはならないことを意味します。
そして、タライの下には、上記の「—」「=」があることがあります。これは洗濯機をその様にセットしてください。
次に手があるものは「手洗い」。
注意したいのは、この手洗いの意味です。これは洗い方が決まっているのです。
「押し洗いセーターやパンツなど、かさがあるものの手洗いに。両方の手のひらで衣料をやさしく容器の底に押しつけたり、持ち上げたりを衣料全体で繰り返えす洗い方。」「振り洗いしわになりやすい薄手のブラウスやスカーフをやさしく洗うときの方法。衣料の中心部を軽くつかんで、洗剤液の中で前後左右に振って洗う。」「つかみ洗いセーターの袖口や裾などの部分的な汚れをやさしく落とすとき。手のひらで握ったり離したりする動作を繰り返して洗う。」の3つのみ。
いずれも、たっぷりめの湯(40℃)に、洗剤を入れての洗いです。物理的な力ではなく、洗剤の、化学的な力を利用すると考えてください。洗濯機で出せないような、弱い力で対応するのが手洗い。
洗濯機の「弱」などを見ると分かりますが、心配になるほどスロー。それよりも弱いのがポイントです。
できないものは、当然、タライに×マークです。
■漂白(三角フラスコ)
「△」は化学で使う三角フラスコ。「漂白剤」=「化学薬品」で「△」。
漂白剤には「塩素系」「酸素系」があります。多用できるのは「酸素系」ですが、「塩素系」が使えると劇的に白くなることも多い。いわゆる強い=服にダメージを与えやすい漂白剤です。
このため、漂白マークは3つ。
△は「酸素系」「塩素系」ともに使えます。
△の中に2本斜線が入ったマークは、「塩素系」は使えません。
そして、×が付くと「漂白剤できない」ということです。
■絞り(脱水)
これに関しては表示がありません。
洗濯機で行う場合は、「-」は弱い処理、「=」は非常に弱い処理、に合わせると間違いないと言われています。
■乾燥(▢)
乾燥は、3つの種類に分かれて表示されます。
正方形の中にドラムをいれた形の、「家庭用回転式乾燥機」。正方形の中に縦線が「吊り干し」そして正方形に横線が「平干し」です。
「家庭用回転式乾燥機」は、○の中に、「点」が打ってあります。
1つだと、80℃が上限、2つだと60℃上限です。
次に「吊り干し」。縦線1本が「脱水して」吊り干し、2本が「脱水しないで」の吊り干しを示します。
そして、斜線が加わると「陰干し」。
「平干し」も「吊り干し」と同じです。
■アイロン
アイロンは「手アイロン」の記号の中、「点」が入ります。
点「1つ」で200℃、「2つ」で150℃、「3つ」で110℃。
数が多くなる度に、温度は低く(やさしく)なります。
■商業クリーニング記号
今までは、「ドライ」一辺倒でしたが、今回商業クリーニングを示す「○」の中には、「P」、「F」、「W」のアルファベットが入ります。
内、ドライクリーニングを示すのは、「P」「F」です。示しているのは薬品名。「P」はパークロロエチレン。かなりの汚れを落とせる有機溶剤です。「F」は石油径溶剤です。
冒頭で言いました通り、環境破壊を防ぐために、行われた改定ですので、当たり前と言えば当たり前です。
しかし一般の方に覚えて欲しいのは、「W」。これは水(Water)、つまりウェットクリーニングを意味します。これ以外は全部ドライクリーニングと言うわけです。
また、できないモノは「×」となります。
新しい洗濯記号。決して何も考えられていないものではないことが、お分かり頂けたことと思います。
もう読めますよね。「40℃を上限に洗濯機で弱い洗い、漂白は酸素系のみ、乾燥機の使用は不可、脱水した後日陰で吊り干し、アイロンは110℃以下。ドライクリーニング、ウェットクリーニング共にOK。」です。
積極的に使うと、衣類ケアが楽になるのが洗濯表示です。
※洗濯記号は、消費者庁のホームページから、転載させて頂きました。
2016年12月4日
タグ: 洗濯記号