VAIO 大田氏が、二年目のVAIOで語ったこと(転載)
「VAIOのDNAは健在か?」のタイトルで、昨年、2015年11月05日、WEDGE Infinityに掲載した、VAIO 大田氏へのインタビューを転載します。
明日レポートする、「VAIO 3年目の経営方針」と合わせお読み頂けるとありがたいです。
ソニーからスピンアウトしてVAIOが新会社になって1年。6月に、大田義美氏が、代表取締役として就任されました。大田氏は、ニチメン(現双日)入社。商社畑で活躍された後、サンテレホン社長を経て、VAIO社長に請われた方で、PC畑ともソニーとも無縁の所から来られた人です。
その様な経歴の方が、今は独立していますが、ソニーでも有数のサブブランドだったVAIOをどちらの方向へ率いて行くのか興味があり、インタビューを試みました。
■「きちんとした会社組織で自活できることが、第一目標」
まず「VAIOをどちらの方向へ率いて行くのか」とストレートに質問してみました。そうすると次の様な答えが返ってきました。
「ソニー時代のVAIOは一事業部でしたので、営業はソニー・マーケティングを含め、ソニー系列の販売会社が行っていました。
これだと、商品を開発、生産、そして販売するというメーカーとしての仕事が閉じていません。このため、今年から国内営業をソニー・マーケティングに委託しながらも、自前の営業部隊を持ちます。売り込みも手がけますが、主にはユーザーと密なコミュニケーションをダイレクトに取り、商品にフィードバック、商品力を高めて行くことに力を入れます」
当たり前といえば、当たり前の回答です。しかし、私が注目したのは、VAIO事業部に営業部がなかったことです。この販売方法がソニーのやり方であり、このためにVAIOの商品仕様は、ユーザーオリエンテッドではなく、メーカーの独りよがりの部分が多分にあったそうです。
VAIOはPCに後期参入したメーカーとしては成功した部類です。
だからこそ今でもブランドがあるわけですが、2つの意味で、面白い話だと思いました。1つめは、マーケティングは、商品を作り上げる時、欠かせないことの1つでもありますが、実は調査の方法によっては全く役に立たないことがあります。というのは、多くの場合、調査は言葉により行われますが、言葉というモノは使い方が人により異なるためです。
要するに、マーケティング調査をしたはいいが、データーを読み違えましたという、ありがちな話です。
あと1つは思い込みの強さですね。実は底光りしている様に感じられる魅力ある商品は、強い思い込みから生まれます。それはどういうことかと言うと、発案者が本当に欲しいと思っているモノを、そのまま組み立てると優れた製品が生まれることが多いからです。
ウォークマンなどは典型例ですね。当時としては、録音機能がない、スピーカーのない機器はなかったからですね。それを盛田氏が「飛行機の中でも音楽が聴きたい!」というので、作らせたのが始まり。この延長線上にあったのが「どこでも音楽が聴きたい」というニーズ。かくして、世界的な大ヒットになりました。
そうなると、あの差別化が難しいPCの商品群の中で、VAIOがある種の輝きを放っていた理由もわかります。
■財産は、「安曇野」
「VAIOの財産は、間違いなく安曇野です。この工場のレベルは高く、これがあったから独立できたと言ってもイイ。ラインは自社製品、請負仕事も含めて、フル操業してしています。しかし会社的には、まだ不安定であり、皆が安心して勤められ、力を発揮できるようにするのが、私の勤めです。『自活』はVAIOの急務です。営業部隊はそのためにも必要ですし、ここ1年で集中的に対応、以降うまく動くようにします」
話をしていると、大田氏に対し「実に堅実だなぁ」というイメージを持ちます。人生経験を踏まえて、父親が子供を諭しているような感じを受けました。
この場合は、VAIOが子供と言うことです。VAIOは「商品力で勝負」と言うPCです。しかし、ユーザーは移り気、常に支持されるとは限りません。その時重要なのが営業力。営業は売りにくいモノを、きちんと売ってこそ光り輝くのです。
商品の中には、営業に媚びるような商品もあります。いろいろな新機能が付いており、店頭を華やかにできる商品です。でも、日本のユーザーの目は肥えています。品質が悪いと、店頭から出て行きません。やはり商品は、ユーザーにアピールし、それで買ってもらえる仕様にすること。営業は、店に商品の魅力を伝え、店と一緒に店頭作りをすることが重要です。
そのためには、できる限り風通しのよい組織が必要です。が、それを作り上げても、生活への不安が募れば、その組織も上手く廻りません。その様なことがないように、ここ1年は経営の安定と組織作りに力を入れるというわけです。
■B to Bに力を入れる
組織作りが終了した1年後、もしくは1.5年後、野心的なVAIOのPCが出てくるのかとの期待を込め、次の商品のあり方について聞いて見ました。
「B to BのPCに力を入れます。ルートも商品も重要です」
実は、期待していた答えとは、ちょっと違いました。
が、これしかないことにも、思い当たりました。今、B to Cに力を入れても、すぐに経営は上向かないのです。
理由は、スマートフォン(以下スマホ)。その昔、B to CのPC用途は、メールにネット、ゲームに年賀状と言われましたが、今、年賀状以外は、スマホで対応可能です。本来、PCは創造性を助けるツールなのですが、B to Cはそのニーズは大きくないわけです。その点、B to Bは、スマホよりじっくり考えることの出来るPCが支持されるというわけです。このため、VAIOは基盤市場をB to Bに置いたわけです。
■1年で海外展開に踏み切った理由
そうは言いながら、VAIOは1年目に、米国、そしてブラジルでの販売を決めています。その当たりを細かくうかがってみました。
「まず、双方共にVAIOブランドに愛着を持ってくれているエリアで、高い人気があります。が、米国とブラジルでは性質が異なります。米国での販売の中心は、VAIO Canvasです。理由は米国では、日本の数倍個人クリエイターがいるからです。仕事の質により収入が大きく変わるわけですので、彼らはいいツールと判断すれば、お金を払います。ブラジルの方は、POSITIVO INFORMATICAとの提携です。こちらは日本より輸出しません。製造、販売ともに海外です。ブラジルではいろいろなモデルが必要になりますから」
ブランド力の有効活用というわけですが、この「郷に入れば、郷に従う」かつ、リスクを小さくする方法は、商社畑の経験がある大田氏に相応しいと感じました。
■VAIOのDNAを見せつけるモデルは?
インタビューしながら感じたのは、打てる手を打ったので、今からそれをきちんと芽吹かせて実らせようとする、堅実な経営の考え方です。これはこれでイイのですが、やはりVAIOに期待したいのは、「VAIOらしい」PCです。やはり、これが気に掛かってしょうがない。で、素直に B to CのVAIOらしいモデルの投入に関して質問してみました。
「PCでも、半年で設計ができるかと言えば、そうではありません。長いものは数年かかります。すでに仕込みに入っていますので、ご期待ください!」
人間には、雌伏の時と雄飛の時があります。会社も法人ですから、同じです。ここ1年雌伏の時を過ごすVAIOの、雄飛の時が待ち遠しいです。
次回は、その結果、「VAIO 3年目の経営方針」をレポートします。
VAIOのホームページは以下の通りです。
https://vaio.com
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