独“ベストブランド”1位ミーレとは?
ロックバンドにバチカンの神父まで御用達
〜独ミーレ社 解体新書 その1〜
ここに2015年のドイツ「ベストブランド・アワード」のニュースリリースがあります。
ドイツ国内で、今支持されているとされるブランドの選抜ですが、海外メーカーも対象ですので、今やヨーロッパでも有数の権威ある賞とされています。
■シーメンスやBMW抑え1位に輝いた“ミーレ”
ベストコーポレートブランドの名前を拾ってみますと、10位から4位は、ヘンケル(洗剤、接着剤などの化学メーカー)、シーメンス(家電)、ポルシェ、フォルクスワーゲン、BMW、アディダス、ボッシュ(カー用品、家電)。とクルマと家電が競っています。フォルクスワーゲンは、アワードの後、例の虚偽が公になりましたので、来年は番外どころか、顧みられない可能性が大きいと思います。
3位は、ダイムラー。ダイムラーはメルセデス・ベンツと一緒に事業をしていたこともある老舗のクルマメーカーです。
2位は、アウディ。ご存知の通り、今最も旬なカーメーカー。高級車としてメルセデスを抑え、ドイツの高級車として君臨しています。
1位はミーレ。ドイツの家電メーカーです。
実はミーレは株式公開していません。独立系ファミリーカンパニーです。上場企業でもないドイツの一企業が、莫大な資本、人材を持つドイツのカーメーカーを退け、ベストブランドなわけです。ちょっと不思議な感じですよね。
今回から3回に渡り、そのミーレ社を色々な視点から解説したいと思います。興味深いだけでなく、そこにはきっとメーカーのあるべき姿の一つが垣間見えると思います。
■“ミーレ”ってどんな会社?
設立は、1899年(明治32年)。
世界史を紐解くと第二次ボーア戦争とありますので、植民地時代もかなり末ですね。
日本はというと日清戦争に勝ったのですが、三国干渉(1895年)などもあり、新興国として苦労を重ねていた時代。同じ年に設立された日本メーカーとしては日本電気(NEC)、森永西洋菓子製造所(のちの森永製菓)があります。
創業者は、カール・ミーレ(Carl Miele)とラインハルト・ジンカン(Reinhard Zinkann)。ミーレの会社名は創始者から取られています。「常により良いものを(Immer besser)」というミーレの指針を決めたのも創業者です。
マークは跳ね馬のエンブレム。いかにもヨーロッパ的です。(跳ね馬のエンブレムでは、ポルシェも有名)
本社は、ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州ギュータスロー(Googleマップではギュータースロー)。ベルリンから西へ、約400km。
ハノーファーとケルンの中間地点あたりに位置します。
東京を起点にすると、滋賀県の米原あたり。かなり離れています。
グループ従業員数、17,741人。内、ドイツ国内10,346人(58%)、その他海外というグローバル企業。
売り上げは、34.9億ユーロ(約4700億円)。比率は、ドイツ:30%、海外:70%。人数比と売り上げ比が異なるのは、開発、製造の拠点をドイツに持つからです。
そして未だに、売り上げが伸びている家電メーカーです。2012年:3.6%、2013年:2.2%、2014年:8.3%の伸び。
真にもってうらやましい限りの健全経営と言ってもイイですね。
しかも、商品の大半はコンシューマー用。
ミーレプロフェッショナルという業務用の部門がありますが、この部門は4.49億ユーロですから、今の日本メーカーがB to Bと言っているのとは少々異なります。
■扱っている商品
メーカーの説明ですから、どんな商品を扱っているのかから始めます。
洗濯機、乾燥機、食洗機、電気オーブン、電子レンジ、電気スチーマー、コーヒーメーカー、冷蔵庫、IH、台所用換気装置、紙パック掃除機、ロボット掃除機、洗剤、等々。
家庭の衣類ケア、フロアケア、そして台所家電がずらりと顔を並べます。
特長はビルトイン型家電が多いこと。商品分析は、次回でじっくりしますので、まず、こんな商品を扱っているということを知っていただければと思います。
■多彩なエピソード
ミーレはいろいろなエピソードを持ちます。
多分一番流布されているのは、故スティーブ・ジョブスが、ミーレの洗濯機を選択したときのことでしょう。
ジョブス曰く。
「ドイツのミーレ社はプロセスをじっくりと考えている。ミーレ社が開発した洗濯機や乾燥機のデザインは素晴らしい。これらの製品にはここ数年どんなハイテク機器にも感じたことがない興奮を覚えた」
それ以外にもエピソードに事欠きません。
■ロックンロールのライブステージを支えるミーレ
ミュージシャンは、非常にフィーリングを大切にします。そのフィーリングを具現化するステージ。これに使われるステージ衣装もそうですね。
歌いながら、踊りながら、数時間、ステージを勤めるわけですので、まあ衣装も汗まみれになるわけです。
紅白の小林幸子の衣装の様に、洗濯できない衣装もありますが、使い終わると、次の公演のためにクリーニング屋さんに・・・。
とはなりません。クリーニングはやはり人がしますので、出来にムラがあること、また中には、近くにクリーニングがない場合だってないわけではありません。(アメリカはショービジネスに関しては何でもありの国で、沙漠の真ん中ですらコンサートを開いたりします。)
彼らが使うのは「Rock n Roll Laundry」社。
一緒についてきてくれて、バックヤードで洗濯してくれるプロ集団の会社。このメーカーの採用洗濯機が、ミーレなのです。
専用の紺色のケースに、ミーレの洗濯機、乾燥機を20台も積み込み色々な所へ付いて廻り、必要に応じて洗濯するのです。写真を見せてもらいましたが、縦長の動くコインランドリーと言うべき感じです。
昔、バレーの衣装は傷みやすいので、ミーレで洗うのが一番。このため、スイスのバレエ団が列車で移動する時、一両はミーレの洗濯機で埋まっている、という話を聞いたことがあるのですが、それの現代版。
顧客として、名前が挙がっているのが、U2、ボン・ジョヴィ、ピンク・フロイド、エルトン・ジョンなので、本当にスゴい。
ちなみに、歌舞伎の関係者に地方公演ではどうするのかと聞きました所、「小屋が決まっているので、ずっと付き合いのあるクリーニング屋に出す」とのことでした。
では、どこにでも行く相撲興行はどうか?というと・・・。知っている人は知っていますが、廻しは洗濯しないのでした!!
■カトリックの神父さんの面倒も見ます
イタリアのローマにはバチカン市国があります。ローマカトリックの総本山ですね。神父さんはファーザーと呼ばれ、黒の法衣を着ます。
で、この法衣を洗うのもミーレ。バチカンの洗濯室にはミーレがズラリと並んでいるそうです。
ロックンローラーから、聖職者まで、幅広く対応しているのがミーレです。
■犬でも洗える洗濯機?
YouTubeでも紹介されている、JTMサービス社が扱っている洗濯機もミーレ製です。
名前、「Woof to Wash」。woofは犬の鳴き声。日本語でいうと“ワン”です。つまり、「洗濯への“ワン”」ということ。
犬が鳴くと、洗濯開始する洗濯機なのです。
その他の特長は、扉にロープ、ロープの先には骨の形をしたカミカミ君(犬が噛みついてじゃれるゴム製のグッズ)。
それと足跡の模様が入って大きなスィッチが一つ。このスィッチは扉オープン用です。
この洗濯機、ものぐさな誰かさんのためではなく、介護犬用のモノ。ご主人様は身体が不自由。当然、洗濯物の出し入れなどチョットしたことでも大変です。
※Youtubeに上がっている、GeoBeats News様の動画を転載させて頂きました。
しかし、 Woof to Washだと、介護犬でも洗濯ができます。お手の応用で扉のロックを外し、ロープを加え大きく開きます。洗濯物を加えて入れ込み、扉を閉める。そして「ワン」。
普段着用なので、絹物とか、特殊なモノはないわけですので、洗濯プログラムも1つ。
これ1つ(ワン!)で十分なわけです。
昔の日本ならどこかのメーカーの技術者が、人から頼まれ作っていたなどがありそうですが、世知辛い現代日本では夢の様なエピソードかも知れません。
でもこれをメーカーとしての誇りを持ち作るのがミーレです。
この様なエピソード溢れる商品を作り出すミーレ。次回は、その商品を分析して行きます。
※この記事は、WEDGE Infinityに掲載したモノを筆者が、加筆・訂正致しました。
商品のより詳しい情報は、ミーレのホームページにてご確認ください。
https://www.miele.co.jp/domestic/index.htm
2016年5月24日
タグ: ミーレ