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最新ロボット掃除機解体新書(下)


iRobot社、ダイソン社に続き、国内2社のロボット掃除機を検証します。
白物家電は、その国の文化、風土をよく伝えます。しかし国際競争が激しいロボット掃除機というカテゴリーでもそうなのでしょうか?
パナソニックとシャープの2社が、その問いに解答します。
■パナソニック「RULO(ルーロ)」
●マツダ ロータリーエンジンと共通の形
DSCF9398男性の読者ですと、この形にピンと来る人も多いと思います。
マツダのロータリーエンジンのローター。
あの日本を代表するスポーツカー、サバンナRX-7に搭載されたすごいエンジンです。このローター、カーマニアには「三角おむすび」と呼ばれていましたが、歴とした名前があります。

それが「ルーローの三角形」。
運動学の父と呼ばれる19世紀のドイツの機械工学者「フランツ・ルーロー」が開発した定幅図形です。回転したときの径が変わらないので、「正方形に内接して回転できる」のです。要するに円より、四角形の隅に肉薄することができるのです。

 
●コンセプトは「隅」に強い
この名前を頂いた、パナソニックのロボット掃除機「RULO」。
それは「隅に強い」ことを目指したロボット掃除機でもあります。

ロボット掃除機を使って分かるのは、毎日が大掃除ということです。人間のかけ方は、実はかなり雑です。生活動線だけの人も多い。
ま、それで用は足りますから。12月9日にルンバのホームページに掲載されたデーターによると、ロボット掃除機は平均して床の約99.05%を掃除しているのに対し、主婦は平均して約73.63%だったそうです。

このためロボット掃除機の初回使用時はスゴく感動します。
人が普段掃除しない隅まで掃除しますから、「自分ちって、こんなにホコリまみれだったんだ!」。この体験からか、ロボット掃除機は「隅々」までキレイが、かなり高いユーザーニーズとして上げられます。RULOの形は、このニーズから出てきたものです。

 
●掃除機メーカーとしての心遣い
DSCF9403さて、掃除の次のポイントは、ゴミを確実に吸い取ることです。この時のゴミの意味は、単なるホコリではありません。「アレルゲン物質まで」です。アレルゲン物質とは、どの家に必ずいる、チリダニのフン、脱皮カス、死骸です。基本、眼に止まらない大きさで、「キレイなカーペット!」と思っても、顕微鏡で見るとアレルゲン物質が多数あったと言うことも、良くあることです。

ちなみに、医療では喘息などの予防のためには、1平方メートルあたり20秒以上掃除機を掛けることが推奨されています(「喘息 予防・管理ガイドライン 2012」による)。
しかし実際の所、それでは時間が掛かりすぎるので、家事が前に進みません。

ここで登場するのがロボット掃除機。
パナソニックはRULOに、ハウスダストセンサーを搭載。
ハウスダストを取り去るまで、丁寧に往復を繰り返しお掃除します。これは病弱な人に取ってありがたい機能です。

病弱な人、特に呼吸器に難がある場合、ホコリが舞う掃除は苦手な家事となります。
それに対し、ホコリが溜まりやすい隅までしっかり掃除してくれる上に、ハウスダスト(アレルゲン)が多いところは、それを取り去るまで丁寧に掃除をしてくれる。
このことからも、お掃除は最終的には「人でなく、ロボットで」と考えるべきでしょうね。

実際、パナソニックは、「掃除機メーカーが、ロボット掃除機を出す限り、中途半端な掃除は許されない」という思いで作り上げたそうです。

 
●ナビはラウンドランダム型で正確
DSCF9411パナソニックのRULOですが、ナビはデジカメを使っていません。
一番始めに部屋の端&隅を走行しキレイにしてから、部屋の真ん中はランダム走行で対応する、ラウンド ランダム型と呼称されるナビです。
RULOは、掃除するフロア全体を一部屋に見立て、ラウンド ランダム型ナビで、最大30畳まで掃除します。今回、壁で仕切られた8畳と6畳間で、その二間が短い廊下でつながっているというちょっと複雑な間取りでテストしましたが、全く問題ありませんでした。
軽い動きと共に、的確に掃除をしてくれました。

また、RULOの組み立てラインも見学させて頂きましたが、全数、元の位置に戻ってくること確認するなど、丁寧な走行検査が行われていました。ナビはロボット掃除機の生命線の一つですから、念には念を入れているとのことでした。

パナソニック「RULO」の魅力は、ルンバと違うアプローチ、新しい「形」にあります。形、サイズを変えないからこそルンバが進化できたのなら、その形を見直すことで独自進化を遂げることができたと言えるロボット掃除機です。

 
■シャープ「COCOROBO(ココロボ)」
●ルンバと最も対極にあるロボット掃除機
P1020862シャープの「COCOROBO」はルンバと最も対極にあるロボット掃除機です。

ルンバの開発者に「ロボット」とはと聞いた所、「「ロボット」とは人間の省力化のデバイスのことです。そしてロボットは、人間を上回ることはありません。人間の従属者です」と解答を頂き、その上で「ルンバは鉄腕アトムではありません」と念を押されました。それを前提にルンバを見ると、まさに人に仕える「黒子」の様に見えます。

COCOROBOは真逆です。シャープのカテゴリーも「ロボット家電」。「掃除機」の中に分類されていません。それはCOCOROBOが人間とのコミュニケーションを取ることができる可能性を秘めているからだと思います。

非常に面白い試みでもあるのですが、ある種のリスクもあります。例えば、10万円で販売するロボット掃除機を作るとしましょう。他社が、ナビに3万円、吸引力に3万円、その他4万円とすると、シャープはこれにCOCOROBO機能がありますので、そこにも費用が取られて行くわけです。そうするとナビ、吸引力に掛けられる費用が少なくなる。

結果、商品の性能が足らなかったり、価格が高くなったりする可能性が出てきます。ところが、実際COCOROBOを使ってみますと、よくできています。
何より面白い。そして可愛らしい。小学校低学年が、お喋りしながら頑張っている感じです。人によって好き、きらいはあると思いますが、他のロボット掃除機とはまるで違うのです。

 
●話をするだけでこうも違うモノなのか!
iRobot社のコンセプトは、言い換えますと「フロアケアを人にさせないこと」です。そしてロボットとは、「人を越えず、従属するモノ」と考えています。人間は掃除をしなくなるわけですから、人は、ルンバのことも掃除のことも忘れるのが理想というわけです。つまり、ロボット掃除機は黒子も黒子、真っ黒子。意識されてはいけないモノと言えます。

ところがシャープのCOCOROBOは違いますね。「頑張っているよ! 見ててね!」ですから、どうしても意識してしまいます。iRobot社とは、考え方が全く違うわけです。COCOROBOは、掃除を意識させるロボット掃除機なのです。なぜこんなことになったのかと言いますと、一番大きな理由は「日本だから」だと思います。

 
●まことにもって日本らしい「ロボット!」掃除機
P1020874日本のロボットと言えば「鉄腕アトム」。心優しい、科学の子。
アトムは、交通事故死した天馬博士の息子の代理として博士により作られたロボットです。ところが人間のように成長しないことに気づいた天馬博士により欠陥品と決めつけられ、サーカスに売られてしまいます。

これを冷酷な目でみると、アトムは「役に立たないロボット」と言い換えることができます。有用だと、キライでも手放しませんからね。もっと厳しい言い方をすると、人間の子供もそうですね。社会システムから見ると役に立たない。

そんな目でCOCOROBOを見直しますと、ルンバは掃除機という明確な役割があるロボットであるのに、COCOROBOは掃除機ながら、しゃべるだけにかなり曖昧さを伴います。

そんなCOCOROBOですが、使って見ると、実に心が和みます。
会話という「コミュニケーション」が発生するためです。コミュニケーションにより、相手がロボットといえども気遣いが生じるからです。人との関わり合いは、コミュニケーションであり、有用だから、能力があるからではないことを認識させてくれます。日本のロボットは、ある種コミュニケーションが取れるのが前提なのです。

 
●コンセプトに影響する言葉
P1020863掃除性能に関してもシャープは手を抜いてはいません。日本の家の大きさを考慮した、やや小ぶりのサイズ。気になる隅のホコリを取りやすい位置に吹き飛ばす、「エア隅ブラシ」。そして進化したナビ「縦横無じんシステム」等々、機能も充分にあります。

パナソニック RULOと同じテストを繰り返し行いましたが、問題はありませんでした。

が、気になる所もあります。
それは「言葉」です。言葉の持つ力と言ってもイイかも知れません。例えばCOCOROBOは「助けて」という言葉を発します。これは「バッテリー残量がわずかになっている」時に発せられる言葉です。また、充電台を見つけられない時は「帰りたくても帰れない」と発声します。厳しい言い方をするとと、これは一種の甘えになる可能性があります。

iRobot社が、言葉を発しないからこそ、ルンバを妥協のないモノまで押し上げてきたのに対し、コミュニケーションが取れ、人の手で移動させてもらえる可能性があるからこそ、充電台に自ら帰るという基本性能を、あるレベルで妥協する可能性があるわけです。今回、テストの時、充電台に帰れないことはなかったのですが、この様に基本性能に妥協を見いだせる言葉は、意識して避けてもらえればと思っています。

 
■最新機種総括
最近のロボット掃除機を4台テストしてみましたが、今までと一線を画します。別に掃除機を1台用意して使うということはなく、これがメイン掃除機。そしてこれだけでも行けるという感じです。正直、フロアケアという家事から、人が解放される日も近いと思います。

これはロボット掃除機の最大手、iRobot社が高い理想を掲げ、誠意を持って商品を作り上げて、他のメーカーはそれに追いつけ、追い越せと頑張ってきたためだと思います。その誠意ある頑張りで出てきたのは、それぞれのメーカー毎の特長が色濃く出た商品群。いろいろな個性があり、百花繚乱。どれをとっても魅力的です。

 
商品のより詳しい情報は、パナソニック、シャープのホームページにてご確認ください。
パナソニック:http://panasonic.jp/soji/ シャープ:http://www.sharp.co.jp/cocorobo/
 
■関連時期
インタビュー「ルンバの見る夢、アトムの見る夢 iRobot開発責任者インタビュー
トレンド「最新ロボット掃除機解体新書(上)

 

2016年1月1日

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