iRobot社の開発責任者のインタビューに続き、現在のロボット掃除機4種を、2回にわたり紐解きます。この試みは、それぞれの性能を細かく比較するのが目的ではありません。メーカーごとの違いが、どんな発想から出ているのかを探ります。
iRobot社の、「人類の掃除からの解放」「フロアケアの完全フリー化」のルンバに対し、各メーカーはどんな方法で、この分野に根を張ろうとしているのでしょうか?
■iRobot ルンバ 980
●ロボット掃除機の標準スタイル
現在の家庭用ロボット掃除機は、全てルンバから始まりました。いろいろなところに入り込めるサイズ、運動性能が良い円形の形、隅のホコリをブラシで掻きだし吸い込む機構等々、今のロボット標準スタイルを作ったのは間違いなくルンバです。
現在、家具屋には「ルンバブル」という言葉があります。聞いたことがある読者もいらっしゃることと思います。「ルンバブル」とは「ルンバが使える」という意味です。主にはベッド下など、ルンバが入るかどうかギリギリの所で用いられる表現です。このこと自体、このサイズを見い出したことが、次の開発につながります。
ルンバの目標は、「人をフロアケアから解放する」という極めて高い最終目標。
このためiRobot社は、自分たちが提案したサイズがほとんどの場合OKされることが分かると、以後サイズ変更をせず、自動化への道をひた走ります。
●自動化への道 〜メンテナンスフリーで強吸引力〜
そして2014年に画期的な技術、「AeroForce(エアロフォース)クリーニングシステム」が登場します。
特殊素材のローラーでゴミを浮き上がらせ、ハイパワーモーターが生み出す気流で、ルンバ内部に真空状態を作りだし飛躍的に吸引力を高めた技術ですが、驚いたのはメンテナンス性です。
掃除機のヘッドの大敵は、長い髪の毛。髪の毛は非常に丈夫なため、刃物を使わない限り、真ん中で切ることができません。これがヘッドローラーに絡みつくわけです。その髪の毛にゴミが絡まったりすると、ローラーが本来の役目を果たさなくなります。
このため掃除機は必ずメンテナンスが必要です。
ところが、AeroForceクリーニングシステム特殊ローラーに関しては、ほとんど髪の毛が絡まない。また絡まったとしても極々簡単に除去できる。4人の娘がいる自宅でテストした時には、心底驚きました。
これも完全自動化を前提にしているからこそ、このレベルの技術が出来上がったのだと思います。高い目標に対し、妥協しない。iRobot社の魅力です。
●自動化への道 〜家のフロア全部を掃除〜
高いゴミ処理能力が求められる機能の1つだとすると、もう1つは何か?
それが今年導入された、地図を作りながら掃除を行い、掃除したところ、掃除をしないところが正確に分かるシステム「iAdapt(アイ・アダプト) 2.0 ビジュアルローカリゼーション」です。
それまでのルンバは、初めの5分位適当に走り回り、掃除する面積を割り出します。その想定面積内の全ての所を4回、別の方向から掃除します。
「ランダム・ナビゲーション」と呼ばれる手法ですが、これは短時間で、その場を掃除することができます。結果も優秀です。
ただしそれはあるエリアを想定して成り立っているため、確実なのは一部屋。広くなるとしんどくなります。
ルンバのコンセプトは、同一階のフロア全部を自動掃除ですから、これではダメです。しかし、それはナビの問題だけではなく、バッテリーの持続時間の問題、ダストボックスの容量問題など、いろいろなことを全てクリアする必要があります。
ルンバ980に搭載された「iAdapt(アイ・アダプト) 2.0 ビジュアルローカリゼーション」のポイントはデジカメを使ったナビだということです。今、デジカメを使い、AIが状況を判断するのは、ロボット掃除機はもちろんのこと、自動車の自動運転システム、エアコンの自動風向制御など、家電でもいろいろなところに使われ始めている、ホットな技術です。
●掃除代行業者がルンバを使う
実際に使って見ると、実に安定した動き。風格さえ感じさせます。「俺様に任せろ!」そんな感じです。開発者のケンは、「これ一台でOK」と言っていましたが、確かに。今までの様に、もう1台掃除機が必要とは思いません。
ロボット掃除機は、ワンステップ高ステージに上がったと言えます。
この原稿を書いている時に、プロのお掃除サービスが、ルンバ980とブラーバを使ったお掃除コースを設立したとの情報が入って来ました。レベルの高さを感じて頂けるでしょうか。
■ダイソン ロボット掃除機 「360 eye」
●ダイソンの代名詞「サイクロンシステム」
今、日本の掃除機市場で最もブランド優位性を持つメーカーはダイソンでしょう。その技術的特長でもある「サイクロンシステム」は、完全に市民権を得ました。
さて、皆さんはダイソンのロボット掃除機と聞いた時、何を期待しますか? 当然「サイクロンシステム」ですよね。サイクロンシステム自体は、吸引力が変わらないシステムですが、ダイソンはそれを小型の強力な、ダイソン・デジタルモーターと組み合わせていますからね。
「吸引力が強く、変わらない、イイ掃除機」がダイソンのイメージです。当然、ロボット掃除機にも、それを期待しますよね。
が、サイクロンシステムにも弱点があります。それは、システム内で強力な空気の渦巻きを作らなければならないので、ある程度高さが必要である、ということです。
ところがルンバの稿で話しました通り、標準機であるルンバのサイズは約90ミリ。
ダイソンはそれでもサイクロンシステムを入れてきました。高さは、120ミリ。ルンバより約30ミリも高い。
ロボット掃除機として不利です。私の家でも、掃除ができない所が出てきました。しかしそれ以外の所では、強烈な音を出しながら、どんどん吸って行きます。いかにもダイソンらしい掃除機です。
●強吸引力から導き出されたコンセプト「シングル・パス・クリーン」
サイクロンシステムを搭載した「360 eye」の大きな特長は、あと2つあります。
1つめは、「シングル・パス・クリーン」。単純な言い方をすると、「360 eye」が一度通ったら、そこはもうキレイということです。この様なコンセプトを持った掃除機を私は知りません。通常、ゴミセンサーを取り付け、キレイになるまで往復する機能を持たせます。それをしないわけですから、吸引力に対する強力な自負を感じます。
しかし「シングル・パス・クリーン」でよいとなると、その他のハードルはグンと下がります。例えば、バッテリー容量。同じ面積をより短い時間で掃除できるので、かなり有利になります。ナビのプログラムもシンプルですみます。
360 eyeに用いられているのは、最近主流になっているデジタルカメラを使ったナビゲーションシステムです。ナビゲーションの元画は、360°パノラマ撮影された画像で、製品名の由来でもあります。
ただ、これはダイソン社自体の得意分野とは言えません。ダイソンは、自社の不得手な所は、投資をします。2014年にはロボットに強いインペリアル・カレッジ・ロンドンに500万ポンド(約8億5300万円)投資していますし、バッテリー関連も同様です。
●シェイクダウンは今から
さて、実際に使って見るとどうかと申しますと、初号モデルということもあるのでしょうが、こなれていないという感じです。
プロ野球で言うと、今年ピカイチのルーキー。光るモノは数々あるのですが、いかんせん経験不足。そんな感じです。
高さで潜り込めない所があるのは、仕方がないとしても、動きの滑らかさに欠ける感じが強いです。特に他社のモデルには見られない、数分に一回、深呼吸するかの様に、動きを止める動作もします。
ただ、これはプログラムのバージョンアップで対応できます。ダイソン360 eyeは、IoTモデルであり、メーカーも「バージョンアップできます」と言うのでサポートが期待できます。
●ダイソン「360 eye」を持つということ
そうは言うモノの、魅力度は抜群。ダイソンらしさが出まくっていますから。
これは商品の面白いところです。完全自動、黒子という意味でしたら、ルンバの性能はトップでしょう。しかしダイソンほどの魅力があるのかと言えば、違うと思います。
ダイソンはクルマで言うと、スポーツカーだと思いますね。しかも「羊の皮を被った狼」でない方のスポーツカー。
このロボット掃除機にしても、クリアパーツを多用したデザイン。車輪でなくキャタピラを採用。最新のデジカメを使ったナビゲーションシステム。そして、お得意のサイクロンシステムを搭載。
「ダイソンの前にダイソンなく、ダイソンの後にダイソンはない」。ユーザーの期待を裏切らず、そんな個性的な商品を出し続けているダイソン。360 eyeはダイソンらしいロボット掃除機だと言えます。
商品のより詳しい情報は、各社のホームページにてご確認ください。
ルンバ980:http://www.irobot-jp.com ダイソン 360eye:http://www.dyson.co.jp
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