電力自由化に向けた動き その2:火力発電の実際
”萌え”も入った東京電力 川崎火力発電所視察会
来年の電力小売自由化を目指し、東京電力は再編の真っ最中。
その中、電力創出は、フュエル&パワー・カンパニー(以下FPC)の担当。東電の電力販売会社、東京電力エナジーパートナーはここからだけでなく、安いところから電気を買い販売するのですが、大元はFPCだと聞いています。
安く電力を供給してもらうためには、FPCが安価に電気を作ることができるのかが、まず重要になります。
昨年、同行したFPCの火力発電所の視察ツアーで思ったことをレポートします。
■いざ行かん「工場萌え」の聖地へ
「工場萌え」という言葉をご存知でしょうか?
そうですね、映画「ブレードランナー」の近未来都市の工場版と言うべきでしょうかね。それとも映画「未来世紀ブラジル」のヒートパイプの芸術と同じというのがベターでしょうか?
兎に角、巨大なパイプがうねる設備は圧巻で、特に夜景がキレイなスポットは評価が高い。
工場夜景サミット(こんなのもあります!)が定めたモノの中に「日本五大工場夜景」があります。
・北海道室蘭市
・神奈川県川崎市
・三重県四日市
・福岡県北九州市
・山口県周南市
今回は、この内の一つ、神奈川県川崎市にある東京電力の火力発電所に行ってきました。
■京葉工業地帯には幾つ発電所があればいいのか?
話は変わりますが、2011年の東日本大震災、私は千葉県勝浦で被災しました。被災したと言っても、当日、家にたどり着けなかった位で済みましたが・・・。
千葉県は、一番高いところでも標高が100mあるかないか。
日本では珍しく山が連なっているエリアがほとんどない県です。勝浦はその太平洋エリア。
そこから、兎に角東京へ戻らねばならないとして、東京湾を目指し、千葉を突っ切ることにしました。
時刻にして、6時過ぎ。
前方の空がどす黒い。怖い黒さでしたね。「日本はどうなるのだろう」と恐怖を覚えました。
後で聞くと姉ヶ崎の石油コンビナートの火災でしたね。
考えて見れば、東京湾はグルリと工場に囲まれているわけです。
それを動かすには、膨大な電力が必要です。
東京電力は、関東に14カ所の火力発電所を持ちますが、うち11カ所は東京湾に面しています。
残るは、鹿島〜福島の太平洋側。ここにも鹿島コンビナートなどがあります。
■2015年のピークと発電量
少々面倒ですが、ここで数字を出します。
東京電力の作り出せる電力量は、6,600万kw。
内、火力は4,353.2万kwで66.0%。原子力は1,261.2万kwで19.1%。
残りは水力です。
2015年の消費のピークは8月7日で、4,957万kwです。
この時は、原子力なしに乗り切っています。
ただし間違えないで欲しいのは、作り出せる電力量と消費できる電力量との間には送電ロス分があるということです。
遠ければ、遠いほど、このロス分は増えます。
上の数値は、ギリギリで乗り切ったことを表していると言うこともできます。
■火力発電所の燃料の主流は、LNGへ
今まで、火力発電と書いてきましたが、実は火力発電は、燃料の種類により、大別されます。
石炭、石油、LNG(Liquefied Natural Gas 液化天然ガス)の3つです。
次のような特徴があります。
石炭。中国で数多くの石炭による火力発電が稼働しているように、一番古くから使われています。イギリスの産業革命を起こしたのも、石炭です。
重量あたりの発熱量は相対的に低く、燃焼させる際には大規模なボイラが必要です。ただし技術的には、そんなに高くありません。
安価な分、ベース電力供給に向いているとされます。
硫黄分・窒素分の含有量が多いため、燃焼時に環境へ与える負荷が大きい。空気環境は、一国だけにとどめることができないため、世界的にも問題視されています。
石油。この所の値下げに続く、値下げで、状況は変わっていますが、燃料価格はLNGや石炭と比べて割高な燃料です。
逆に、貯蔵や運搬がLNGや石炭と比べて容易です。また、調達の柔軟性にも優れています。
また、発電所地域の環境規制をクリアするために、硫黄酸化物の発生量が少ない超低硫黄原油(硫黄分0.1%以下)を中心に使用しております。助燃用に重油も使用しています。
価格も高く、運用も少々面倒であるため、ベースではなくピーク電力への対応に向けられることも多いです。
最後はLNG。気体の天然ガスを-160℃に冷却、凝縮し、容積を600分の1にしたもの。よく「ガス」と呼ばれます。
が、燃焼時のCO2排出量や窒素酸化物が他の化石燃料より少なく、比較的クリーンな化石燃料です。
日本では、これが主流です。
この目で、東京湾の発電所を見直してみると、11カ所の内、9カ所がLNG、2カ所が石油です。
■川崎火力発電所の実際
さて、今回行った川崎火力発電所ですが、発電機は最終的に6軸設けられる予定です。
単位が「軸」とあるのは、軸に取り付けられたタービンを廻して電力を得るかららしいのですが、なんとも独特の呼び方です。
4軸が稼働。そして今年(2016年)に2軸が稼働します。
機種は、1500℃級コンバインドサイクル(MACC)と呼ばれるものです。
一番最初の1500℃は、動作しているときの温度を示します。
鉄の融点が、1539℃、ニッケル:1455℃、チタン:1727℃。
普段耳にする金属で、この温度近くまで頑張れるのは、この3種類位というほどの熱さです。
そしてコンバインドサイクルというのは、ガスタービン発電と、汽力発電(蒸気力発電)を合わせた発電方式を言います。
ガスタービンは、ガスを燃焼させることによりタービンを廻します。しかし、その時出る膨大な熱量(なんたって1500℃)を無駄にしては実に惜しい。このためその熱で蒸気を作り、その蒸気力でもタービンを廻します。
その2つを合わせたのでコンバイン(合体)と呼ばれるわけです。
と書くのは簡単ですが、実際のタービンはニッケル合金製。
温度制御を誤ると、溶けてしまいます。ここら辺のノウハウが重要なところですね。
今年、追加される2軸は、1600℃。より温度制御が重要になってきます。
■発電所内は・・・
さて、発電所内はというと、巨大な、本当に巨大な広い建屋に、発電機が4つ置かれているだけ。
極めて、きれいなレイアウトです。
前段で、発電機は「軸」と書きましたが、ガスタービン発電も汽力発電も同じ軸で行ってしまいますので、数百mの長い軸が、長いケースに収められている状態です。
また、ガス供給、蒸気関連の設備も、高温など危険ですから、完全覆いです。
この発電機、3軸を1つの系統とし、コントロールします。
例えば、1号系列では、排気用の煙突は1つで対応する等です。
しかし、現場に立つと、ただただ巨大な設備に圧倒されます。
そして、排熱回収ボイラのダクトのうねりに、少し萌えました。
■電力コストを下げると言うこと
ガソリンスタンドで販売されるガソリンが、原油の価格をダイレクトに反映しない様に、電力の価格も燃料だけでは決まりません。
この巨大な設備の導入費、維持費、などが含まれるからです。
それでも下げるためにしているのは、効率の良い導入です。
例えば、今年稼働する2軸のスケジュールを前倒ししてやるということなどもその一つです。
設備導入は、基本、チェックに次ぐ、チェックで、手間が掛かるモノなのですが、現在、東京電力では、トヨタのカンバン方式を取り入れ、スケジュール改善に取り組んでいるそうです。
1円差、10円差。
確かに、単位的にはコイン1枚ですが、設備コストが掛かる場合は、地道な努力の集積とも言えます。
今頃かぁ、という声もあるとは思いますが、するとしないとでは、全く違いますからね。ここは評価したいと思います。
■自由化の不透明性
11月位から、自由化時の価格の話が出回り始めました。
しかし、何故安く出来るのかを明確にされていないと思います。
何故、最大手の東京電力ができないことを、他の会社ならできるのか?
人件費なら、人件費だと明確にして欲しい。
電力はベースインフラですから、安くあるべきで、それは携帯電話の様なハチャメチャな競争はできないと思います。
が、その時、「明朗会計」であって欲しいというのが、私の希望です。
例えば、A社は、効率の良い新規設備を持つB社より電気を買っている。
だから、その分安いとかです。
ベースインフラですから、是非、お願いしたいモノです。
また今、東京都民の過半数は、「原子力発電の電気は買いたくない」と言っています。上記の話は、それに対する解答にもなります。
■最後に
見学した日、同じ敷地内では、ある発電機の撤収作業がなされていました。
震災で、使えなくなった原子力発電分を賄うために、海外が貸してくれた発電機です。
しみじみした感じの説明でした。
技術的には、古いモノですので効率も悪かったと思いますが、お陰様で、首都圏で使う電力の一部が賄なわれたのも事実だと思います。
個人的な感想にしか過ぎませんが、新しい設備により、安い電力供給が可能になりつつある川崎発電所で、東電の「現場の苦労」を見たようにも思いました。
2016年1月4日