うらやましがられるメーカー ミーレの商品設計法
独ミーレ社。
世界に冠たる高級家電メーカーです。
スティーブ・ジョブスが気に入った家電としても有名です。
そして、いろいろなメーカーさんと話していると、うらやましい会社として名前が挙がることがあります。
どううらやましいかというと、「あーなりたい!」ということでうらやましいのです。
昔、庄内藩の豪商 本間光丘という傑物が「本間様には及びもないが せめてなりたや殿様に!」と褒め生やされましたが、この本間光丘のような雰囲気なのです。
江戸期の殿様なので、権力はスゴいです。
ところが、それよりスゴいというわけです。
実は本間光丘は、潮害を防ぐ防砂林を作り田んぼを増やしたり、酒田港口に灯台を建てたり、藩士の借財を整理し、本間家の低利な資金に乗り換えさせたりしています。
お金持ちですが、お金の使い方に長けた人です。
それでいて、普段の生活は質素。
今の、永田町当たりの人とは、出来が違いすぎでしょう。
こうなると、尊敬に値します。
この世知辛い世の中で、尊敬される組織というのは、レアです。
あのアップルも、尊敬とはちょっと違います。
「うまいことやったなぁ」と思う人もいれば、「俺にもできる!」と思う人もいると思います。
が、尊敬の念まで入りません。
マスコミにより神格化されすぎ、どうしても引いてしまいます。
ところが、ミーレは製品以外の名前が出てきません。
ただそれだけですが、高級家電メーカーとしてぐらつかない。
これからすると、国内の大手メーカーの方がぐらついて見えます。
そして尊敬されている。
やはりスゴいと思います。
その理由の片鱗を、先日、ミーレ・ジャパン(ミーレの日本法人)が主催のイベントで、開発責任者の話から、一部感じることができました。
■ミーレの商品開発の手順
ミレーの商品は、必ず次の手順を踏むそうです。
1.BRIEFING(概況)
2.RESEARCH(調査)
3.IDEATION(着想)
4.CONCEPT(全体を貫く基本的な概念)
5.DETAILLING(細部チェック)
6.IMPLEMENTATION(実行)
これを、製品の4要素全部におこなうそうです。
1.Industrial Design(形)
2.Color & Material(色、素材)
3.User Interface(ユーザーの接点)
4.User Experience(ユーザーの経験)
都合、24回に渡り、何度も何度も打ち合わせを積み重ねるそうです。
多分、ミーレ以外のメーカーもすることは、余り変わらないと思います。
もしあるとすると、ユーザーとの接点、ユーザーとの経験と分け、深掘り化しようとしているところでしょうか。
ただ掛ける時間が長い。ありとあらゆる方向から検討するそうです。チームでの合意を取る方が社長説明より大変だそうです。
■ユーザー調査例
今回は、ビルトイン型の調理家電 G6000シリーズを通じ、ミーレが提案するDesign of Lifeのお話ですので、ユーザー調査は、台所に関して行ったそうです。
実は、ユーザー調査のポイントは、分類とそれに当てはまるユーザーを見つけられるかにより、成否が分かれます。
今回は、キッチンを4タイプに分けました。
ナチュラル ⇔ 人工、先進 ⇔ 保守の切り口が、分類には良かったようです。
1.individual naturalism
ウッドを大量に使用し、機能を見せつけないキッチン。キッチンらしさのないキッチン。
2.consequent purism
キッチンの装置を目立たせた。ただし装置自体のデザインが今までと大きく異なる。
これもキッチンらしくないキッチン。人工美に富む。
3.classical complexity
ウッドを大量に使用した、保守的なキッチンらしいキッチン。
4.clear harmony
キッチンらしいキッチンであるが、モノトーンなど人工的な感じがする。
これら全部に合うデザインを考慮し、コンセプトを決め込んで行きます。
■ミーレの前提
これに加え、ミーレ社としての前提条件があります。
それは、Life Styleとして、20年持つと言うことです。
「20年」。十年一昔ですから、二昔です。
赤ちゃんが産まれて、成人するまで使える。
これはスゴい意味を持ちますね。
生まれてから、家の風景が余り変わらない。
ある家電も変わらない。
消費が美徳ではなく、思い出が美徳という感じです。
そのため
1.長く使える素材を選ぶ
2.どの様な環境にも適応できるフォルムを持つ
3.ビギナーからプロまで、誰でも上手く使える
これらを満たすわけです。
さらにブランドイメージも継続します。
一つは、ビルトイン型。
あと一つは、ビルトインは数台まとめて使うことに成りますから、水平を強調したデザインです。
■コンセプト:Design of Life
これらの理念をまとめた言葉が、G6000のコンセプト、Design of Lifeと言うわけです。
かなり象徴的な言葉ですが、ここまで細部条件が決まっていますと、同じ方を向くことになりますので、ブレはないそうです。
■そして出てくる象徴的なデザイン
G6000の象徴的なデザインとして、2つ例を挙げておきます。
1つめはハンドルですね。
ドアの前に浮いて見えるようなハンドルです。
これはビジュアルの面白さもありますが、ハンドルはユーザーが手で持つ部分なので、品質を手で感じてもらえるようにという思いで行ったとのことです。
2つめはインターフェイス。
どこに何があるべきかを徹底的にテストし、デザインします。
電源は、シリーズ全部、同じ位置、同じデザインです。
スマホでスタイリッシュであるiPhoneが、センターボタンを持つが如くです。
これは重要ですね。
モデル毎扱いが違うと、もう大変です。
これがないのは、非常にプラスです。
■時がないデザインへ
この様なお話をしてもらったのですが、トークコーナーで彼は面白いことを言っていました。
「時(時代)を忘れるようなデザイン」を作りたい。
人間はその時代性を背負い生きていますから、人間がデザインするモノはどこかに時が残っています。
しかし、20年間持つ家電に必要なデザインをする上では、理想かも知れませんが、持たなければならない感覚だと思います。
■Iotへの考え方
トーク終了後、「このIotの時代、20年持つミーレ家電は不利でないのでしょうか?」と聞いて見ました。
トークの時、「スマホは料理を変えるかも知れない」と言っていたのを聞いての質問です。
彼の答えは、ミーレならではの思想だと思いました。
「ソフトで対応できるモノは、問題ありません。
ハードの場合は、一部交換で対応を考えています。
例えばパネルを交換して、新しい情報を得られるようにする」とかです。
なるほどと思うと同時に、ミーレが未だに、売り上げを伸ばしている理由も垣間見ました。
彼らは一度買ってくれたユーザーの絆を切らないのです。
ここで「機能が変わったので、新しいのを買ってくれ!」と言われるとどうでしょうか?
「えーっ。」
となりますよね。
ところが、「費用は掛かりますが、この様な対応が可能です。」と言われると、ユーザーはメーカーの自社商品に対する愛を感じますよね。
「ずーっとお願いね。」と思いますよね。
これがユーザーとの絆です。
ミーレが、殿様でなく本間様の雰囲気を持つのは、商品というものを徹底してマルチ目線で煮詰めているからだと思います。
これは当たり前のことですが、これが中々できない。
そしてユーザーとの絆を大切にする。
これも当たり前のことですが、中々できない。
日本メーカーも、格を上げて欲しいモノです。
文中で説明不十分のG6000のより詳しい情報は、ミーレ・ジャパンのホームページにてご確認ください。
https://www.miele.co.jp/domestic/index.htm
2015年11月3日