昔の道具職人は、発注者を見て仕事をしたと言います。
その人のなりが悪いから、お金がもらえそうもない、じゃ手を抜こうと思うわけではなく、その人が使いやすいように創意工夫をしたそうです。
本日、タイガー魔法瓶の製品を見ている時、電気ケトルにその工夫を見つけました。そのお話をします。
■お湯を沸かす、お湯を注ぐ
電気ケトルに一番求められるのは、お湯を沸かす機能です。
短時間で、少ない電力で、思った通りの温度にお湯を沸かす。
これが基本です。
昔の道具で言うと「薬罐」ですね。
一番のイメージは、ラグビーの薬罐ですかね。
やや丸みを帯び、黒いポッチが付いたフタ。
全体が鈍い金色を帯び、倒れた選手に水をぶっかけるあの薬罐です。
ところが、薬罐の形は実に様々。
我が家は、メイン、コーヒー用、アウトドア用の3つを持っています。
コーヒー用は、ハンドドリップの時に使うやつです。
伝説の茶釜「平蜘蛛」のように、どてーっと、のぺーとした平たい形ではないですが、十分個性的といえば個性的。
特徴は2つですね。
細い注ぎ口。
注ぎ口の付け根は薬罐の底近くに付いている。
これはドリッパーに入っているコーヒー粉に、正確にお湯を注ぎやすくするための工夫です。
薬罐の形は面白さもあるのかも知れませんが、お湯を沸かすだけでなく、お湯を注ぐ機能も追求しているわけです。
■安全性もスゴい
実はタイガーは、四年連続キッズ・デザイン賞をもらっています。
キッズデザイン賞は、「子どもが安全に暮らす」「子どもが感性や創造性豊かに育つ」「子どもを産み育てやすい社会をつくる」ための製品・空間・サービスで優れたものを選び、広く社会へ伝えることを目的としています。
タイガーが評価されているのは、この中の主には「子どもが安全に暮らす」です。
なんたって「お湯(熱湯)」ですからね。
皮膚に付いたら、容易に皮がむけます。
海外製品だと、「うーん。こんなに?」と思えるほど、湯気をまき散らしながら、熱くなるなるケトルもありますが、そこは日本製。
湯気を出さない「蒸気レス沸とう」、万一転倒してもお湯が漏れない「転倒流水防止構造」、そして本体が熱くなりにくく 保温効果も高い 「本体二重構造」と、二重三重の安全性を持たせています。
これで数千円ですから、本当にスゴいです。
■どこまで細部を煮詰めるか
それは兎も角、バリエーションの1つとしてコーヒードリップ用は出せないのかと聞いて見ました。
安全をマストと考えているのでかなり厳しいとのことでした。
理由は、構造ですね。
ケトル底面は、基本「加熱」に用いられます。
このため、安全構造はケトル上部に組み込まれます。
つまり、お湯をこぼさない機構も、上部です。
コーヒー用のポッド(薬罐)は、湯のコントロールをするためにお湯を下から注ぐ様になっていますよね。
つまり、それの構造が取れないわけです。
うーん。
今のスペシャリティ・コーヒーの源流は、コーヒーのストレートをこよなく愛する国、日本が発祥の地ですから、できれば「全日本」でコーヒー器具をまとめたかったのですが・・・。
「でも、整流機能は付けていますよ。
お湯が暴れては、ダメなものですから!」
今は廃れつつありますが、日本は一期一会を楽しむための「創意工夫」を「形式」にまとめます。
形式は、格好などもありますが、「所作(しょさ)」が、動きが重要です。
所作が身についている、つまり動きが滑らかであることは、見ていて非常に気持ちがイイ。
例えば、茶の湯の場合、その中には湯の動きも入ります。
湯が滑らかに扱われ、お茶になるのはイイモノなのです。
そうですね、マンガの「美味しんぼ」で寿司の所作があったと思います。
食べる方ではなく、職人の方の所作です。
この職人さん、威勢はいいのですが、客の目の前で握った時と、そうでない時の反応が違うのです。
客の目の前で握らない時の方が、評価が高いのです。
理由は所作。
握る時に、ついついお米を余分にとってしまい、その米を捨てていたのですね。
その所作を汚いと思い、食欲減退になってしまったわけです。
食欲という原始的な欲求と、それを文化にまで消化させたのが人とすると、人が使う道具は所作が求められるわけです。
彼らのいうことは理にかなっています。
■ユーザーの立場でいうと電気ケトルは安い方がイイ! だから・・・
ユーザーの立場からするとモノは安い方がイイです。
しかし細かなパーツを入れて行くと、値段が嵩んで行きます。
で、性能が良くなるのですが、それじゃーねぇ・・・ということはよくあります。
では、安くてイイモノを作ることはできないのでしょうか?
可能性はあります。
一番イイのは、形に性能を取り込むことです。
つまり、形状により機能付加を行うのです。
今回、タイガー魔法瓶が取り入れたのは、この手法です。
湯の流れを制御する溝、湯を切った時に湯滴が垂れるのを防ぐ凸凹を樹脂成形で、筐体と一緒に成形するわけです。
追加で余分な工程がでませんので、価格を上げずに済むわけです。
■職人の心
これは、電気ケトルですが、実は、近年のタイガー魔法瓶の商品は、イイものが多い。ほとんどがトップクラスです。
実際、商品を手に取ってみると、隅々まで、よく気を配っているのが、よく分かります。
マスコミの話題になるのは、勝ち組、負け組の話が多いのですが、メーカーの開発者、生産者は、「よりイイものを作って、社会に貢献したい」と思っている人が多いです。
それは今も昔も変わりません。
昔の職人は、基本オーダーですから、より使いやすくなるよう工夫します。
それが噂になると流行ります。
人のためでもあり、それで世の中で食っていけるわけです。
「情けは人のためならず」と言うわけです。
人の世は「丸い」ですからね。
■電気ポットは違う工夫
電気ポットは、電気ケトルとは違う工夫がされています。
電気ポットは、ケトルと違い、お湯を移す器までの距離は長いことが多いですし、完全に下向きに湯を出しますので、かなりの勢いになります。
このため、こちらはお湯の出口にシリコンのパーツがはめてあります。
お湯の通り道は、耐熱樹脂パーツで出来ています。
しかし、垂直に曲がっています。
中抜け、垂直に曲がる樹脂の筒を作る場合、多くの場合2つの金属バーを使います。
外筒の中に金属バーを入れ、間に樹脂を流し込み、固まってからバーを抜きます。そうすると、垂直に折れ曲がった水路が残ります。
問題は、その折れ曲がった部分です。
樹脂は、水と似て少しでも隙間があれば入り込みますからね。
つまり曲がり部分の壁面は小さい凹凸がでるわけです。
凹凸があると水流は乱れます。
出口に凹凸を付け、ある程度方向性を付けてやっても、電気ポットは高い位置から器に注ぐ可能性もありますので、最後までキレイに落ちるとは限りません。
タイガー魔法瓶の技術者は、これを出口にシリコンパーツを噛ますことにより解決しました。
シリコンは耐熱、そして柔らかいですから、熱いお湯の荒れた動きのエネルギーを吸収します。
これで、より安全性が増しますし、またそれぞれの動きがキレイに見えます。
■これがメーカーの「お・も・て・な・し」
この稿を書いた理由は、電気ケトルが安いからです。
しかし、これ程まで、カタログに載せない部分も、こんなにも丁寧に作られている。
これこそがメーカーの「お・も・て・な・し」です。
もし、電気ケトルの購入を考えている方がいらっしゃいましたら、是非候補の1つに入れて下さい。
商品のより詳しい情報は、タイガー魔法瓶のホームページにてご確認ください。
http://www.tiger.jp/